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 令和4年度税制改正大綱が閣議決定された。
 注目されるのは国税庁が要求したであろう「円滑・適正な納税のための環境整備」として打ち出された改正である。
 所得税と法人税において、ほぼ同じ取扱いであるので、法人税に関する改正内容を全部掲示するので読んでほしい。
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 法人が、隠蔽仮装行為に基づき確定申告書(その申告に係る法人税についての調査があったことにより当該法人税について決定があるべきことを予知して提出された期限後申告書を除く。以下同じ。)を提出しており、又は確定申告書を提出していなかった場合には、これらの確定申告書に係る事業年度の売上原価その他原価の額(資産の販売又は譲渡における当該資産の取得に直接に要した額及び資産の引渡しを要する役務の提供における当該資産の取得に直接に要した額として一定の額を除く。以下「売上原価の額」という。)並びにその事業年度の販売費、一般管理費等の費用の額及び損失の額(以下「費用の額等」という。)は、次に掲げる場合に該当する当該売上原価の額又は費用の額等を除き、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととする。

① 次に掲げるものにより当該売上原価の額又は費用の額等の基因となる取引が行われたこと及びこれらの額が明らかである場合(災害その他やむを得ない事情により、当該取引に係るイに掲げる帳簿書類の保存をすることができなかったことをその法人において証明した場合を含む。)

 イ その法人が法人税法の規定により保存する帳簿書類
 ロ 上記イに掲げるもののほか、その法人がその納税地その他の一定の場所に保存する帳簿書類その他の物件

② 上記①イ又はロに掲げるものにより、当該売上原価の額又は費用の額等の基因となる取引の相手方が明らかである場合その他当該取引が行われたことが明らかであり、又は推測される場合(上記①に掲げる場合を除く。)であって、当該相手方に対する調査その他の方法により税務署長が、当該取引が行われ、これらの額が生じたと認める場合

(注1)その法人がその事業年度の確定申告書を提出していた場合には、売上原価の額及び費用の額等のうち、その提出したその事業年度の確定申告書等に記載した課税標準等の計算の基礎とされていた金額は、本措置の対象から除外する。

(注2)上記の改正は、令和5年1月1日以後に開始する事業年度から適用する。
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 そもそもなぜこの改正が盛り込まれたのだろうか。
 それは、調査で売上除外が見つかった納税者が、「後出し」で帳簿に載せていない原価や費用があるのでそれを認めろと主張する場合、課税庁には調査権があり立証責任があることから、その主張を確認してそれが事実なら原価や経費を認容することが求められるからだ。
 というのも、調査というのは、その時点で判明している事実に基づき、もっとも正しい課税標準を確定させる作業であるからだ。
 つまり、計上していない原価・費用がこれこれあると主張された場合、課税庁はその確認をせざるを得ず、そのために多大の日数や負担を強いられるというわけだ。

 このような事例は、実は少なくないだろうというのが筆者の感想である。

 調査慣れしている納税者は、いわゆる「両落とし」という手法で過少申告する場合がある。なぜか。両落としをすれば、売上総利益が前年対比上大きく変動しないため、課税庁の調査選定に引っかかりにくいという経験則を持っているからだ。
 また、無申告者は、自分の粗利が同業他社より高いという場合、調査を受けても帳面や原始記録が一切なければ、同業者比率で推計課税を受けた方が得だという経験則を持っているからだ。
 ある意味、悪質であるが課税庁としては正しい課税標準を立証せざるを得ず、歯噛みしていたに違いない。

 そこで、「円滑・適正な納税」を図るためにこの改正を打ち出した。

 計上していない原価や費用があるなら、第一義的には納税者本人が立証しろというのである。
 原始記録を保存していたり、記帳しているが決算上計上していないことが納税者から提示される場合は認めるというのだ。

 ただし、無条件で認めるのではなく、その提示内容が真正であることを反面調査や手持ち資料等から税務署長が確認できる場合に限るというのである。
 そうでない場合は損金に算入しないので、納税者の立証主張がとにかく大前提となる。

 最近、記帳、保存、調査時の提示・提出など様々な動きが起きている。
 課税庁の苛立ちはわからなくはない。
 ただし、立証責任の転換という視点で見た場合、この改正がどのような評価となるのか興味深い。そもそも立証責任の転換ではないという者もいるであろうが、筆者は事実上立証責任の転換ではないかと思う次第である。行政不服関係にも及びかねないだけに、租税法学者の見解を聞きたいものだ。