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   改正に対応できていないのに、来年1月1日から施行
    何百万の業者が対応不能で義務化がスタート

令和3年度税制改正で、電子帳簿保存法が抜本改正された。
施行は来年1月1日からであり、あと2か月後から具体的に対応しなければならないが、ほぼ全業者に影響が及ぶにもかかわらず、対応できているところはごく一部業者に限られている。
おそらく、電子取引は電子保存が義務化されたので、何百万の業者があたふたすることになるが、簡単にできる話ではないため相当の混乱が予想される。

電子帳簿保存法は平成10年度に「納税者等の帳簿保存にかかる負担軽減を図る」観点から創設された。
簡単にいえば、税法で規定され義務化されている帳簿・書類の保存を紙に代えて電子でもよいとするもので、要は記帳と保存の特例であるから、その選択は任意であり、やりたい人に関しては事前承認制がとられていた。
なお、電子取引の電子データ保存は任意ではなく、データ保存が義務化されていた。義務化されているので、事前承認制はない。これについては、後で触れることにしよう。

 旧電帳保存の利用状況

 旧法では、帳簿と書類の電子保存特例創設にあたり、財務省はがんじがらめの縛りをかけた。このため、電帳法を気軽に使うことが難しく、利用状況は次のとおりである。 

 2020年10月16日 政府税制調査会資料

   事業形態    納税者数   承認件数   利用割合

   大法人     3.3万社     2.4万社   72.7%

   中小法人   309.9万社   14.8万社    4.8%

   個人事業者  525.1万人    6.2万人    1.2%

    合計    838.3万業者   23.4万業者    2.8%

 *うち、スキャナ保存承認数は全体で4,041件(2020年6月末現在)で利用割合は0.05%と、限りなくゼロに近い。
従って、上記の承認数は帳簿保存の承認件数と考えてよいだろう。

 この利用状況を見ればわかるが、帳簿の保存については電子計算機とサーバや印刷機などの関連設備、要件に対応できるソフトや、それらの事務処理をする職員の配置が可能な大法人は利用が進んでいるが、中小法人や個人業者になると利用率は極端に下がる。
一方、スキャナ保存の承認件数は、タイムスタンプの付与などさらにひと手間かかり負担軽減につながらないことから、誰も手を挙げていない実態が見て取れる。
なお、電子取引については事前承認制ではないため、どのような対応を納税者がとっているのか実態はまったくわからない。この電子取引の実態は、おそらく課税庁も押さえていないであろう(調査時にチェックするしかないため)。

中小企業は無関係でいられたが‥‥

 この実態からわかるように、中小法人や個人業者は紙の帳簿や書類を保存しておけば、電子帳簿や書類のスキャナ保存に対応する必要はなかった。
ところが、電子取引の保存義務に関し、今年度の改正でほぼ全納税者か対応せざるを得ない改正が行われた。

 ここが問題の焦点となる。

 旧電帳法による電子取引の規定は、例えばメールで注文書を受取り、その注文書の紙原本を受取らなければ、メールで受け取った注文書が「電子取引」に該当するので、電子データで保存することが義務化されていた。
しかし、改正前の旧電帳法では、電子取引の電子データ保存義務化については、紙の保存でもいいよという「ただし書き」があったため、メールで受け取った注文書を紙に打ち出して保存すれば義務違反にならなかった。だから、大半の業者はこの方法で書類を保存しているので、旧電帳法に対応する必要はなかった。
ところが今年の改正で「ただし書き」が削除された。このため、メールなどで受けとったり発信する注文書などの取引情報で紙原本を収受しない書類は、電子データの保存だけが義務化となり、パソコンからその注文書を打ち出して紙保存しても保存とは認められないことになった。
なお、単にデータを保存すればいい話ではない。検索や真実性担保の要件を満たさなければならない。とても面倒な手順を経て保存しなければ保存と見做されない。
何が問題になるのかといえば、青色の承認を受けている者は、青色取消しになりかねないということである。

国税庁の通達は当局のやりたい放題

 この要件に関しては、国税庁が通達を出し、調査時に調査官の求めどおりの形式で全件のダウンロードに応じれば、検索要件を若干緩和してやるという、課税当局やりたい放題の「有難い」ご託宣まで用意されている。
しかし、課税庁にとってもいちいち電子取引データを画面で確認したり、ダウンロードして持ち帰り、調査官が検索したり自らが分析するとすれば、手間と時間がかかる。効率的な調査展開をすることはできず、仮にそれをやったとしても、増差所得や不正所得の発見に結び付くとは限らない。それよりも打ち出されて保存されている紙の書類を手際よく検査し質問する方がより効果的・効率的調査展開となるはずだ。
調査現場を知らない財務官僚が頭だけで考えそうな施策といえる。

 さて、結論的にいおう。

 改正後の新電帳法で電子取引に関して「ただし書き」を削除し、それに対応する通達を手前勝手に出したのは、中小業者の実態を無視する暴挙である。
電帳法創設の趣旨である「負担軽減を図る」どころか、真逆に負担を課し、納税者の権利も侵害しかねない。このような悪改正は直ちに是正されるべきである。
どう改正すべきか、それは、「ただし書き」の復活である。早々に再改正していただきたい。