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 令和3年度税制改正で創設された通則法第74条の2第5項について、当ホームページ「税金ウォッチ139号」(2021.05.01)で取り上げた。

 この件に関し、財務省のホームページで改正の解説が掲載された。

   改正理由

 解説では、改正の理由を次のように述べている。

 「法人税等に関する調査については、法人又は事業者の納税地の所轄国税局又は所轄税務署の当該職員に限定されており、これを悪用して、調査中に納税地の異動を繰り返すことにより調査忌避が行われる事例が散見されているところです。
 今回の改正においては、このような調査忌避行為への対応として、法人税等についての調査通知があった後にその納税地に異動があった場合において、その異動前の納税地(以下「旧納税地」といいます。)を所轄する国税局長又は税務署長が必要があると認めるときは、旧納税地の所轄国税局又は所轄税務署の当該職員は、その異動後の納税地の所轄国税局又は所轄税務署の当該職員に代わり、その法人税等に関する調査(その調査通知に係るものに限ります。)に係る納税義務者等に対し、質問検査権の行使をすることができることとされました。」

 そして、括弧書き(その調査通知に係るものに限ります。)について、解説では次の注書きを載せている。

 「(注2) 上記のとおり、この特例の対象となる法人税等に関する調査は、納税地の異動前にされた調査通知に係る調査に限定されていますが、これは、その納税地の異動前にされた調査通知に係る調査の終了後に再度納税地の異動があったとしても、この特例の適用はないことが明らかにされたものです。」

 改正の理由は、本店異動を繰り返して調査を逃れる事例が散見されるということだが、そんな法人がいること自体に暗澹たる思いがするし、それを放っておいてはいけないので、改正理由としては支持できるところだ。

 そのうえで、この改正は行政上単純にいかない問題があるのではないかと思えるので、疑問の形で整理してみたい。

  「調査通知」の法的位置づけからの疑問

  この創設規定が働くのは、「調査通知があった後にその納税地の異動があった場合」である。

 では、調査通知とはどのような行政行為なのであろうか。

 通則法74条の9で実地の調査にあたっては「事前通知」することを原則とすることが手続規定として定められた。事前通知は法的根拠を持つ。

 しかし、「調査通知」は通則法第65条⑤で加算税の取扱いを規定する条文で規定されているに過ぎない。その条文の書き方は、通則法74条の9で規定している事前通知事項の2点と通則法施行令第27条③で規定する「調査をする旨」の3点の通知を「調査通知」とし、それがなされる前に修正申告書を提出した場合は一切加算税を課さないとしている。

 「調査通知」に関して他の規定はない。ということは、「調査通知」とは、法的手続きである「事前通知」のうちからつまみ上げた3点を便宜上通知する行為でしかない。これを法的手続きとすることはできまい。

 では、この便宜的行為の法的位置づけはとなれば、行政手続法で規定する行政指導という以外にない。

 この場合、行政手続法第32条及び35条が行政機関側にかぶってくるので、行政指導であること、その趣旨、責任者等を示すことが強制されている。この場合、受ける者の任意の協力によってのみ実現されると規定していることから、調査回避を狙っているものであれば「調査通知は行政指導ですね。では調査通知は受けません」と拒否すれば、課税庁は調査通知を強行することはできない。

 ということは、この創設規定は入口において機能しないといえるのではないか。

 なぜこうした法的根拠の乏しい規定を置くのか。日本の行政法、行政手続に関する未整備が原因であろう。

 この創設規定を働かせたいというのであれば、調査通知などという行政行為は不要のはずである。というのも、法的手続きである事前通知を書面で行えば、その対象者が受け取れば通知の効力が発効するのである。

 したがって、創設した第5項を有効に使いたいのであれば、調査通知ではなく「事前通知があった後」とし、かつ、書面による事前通知方式を取ればいいのであって、書面による事前通知を半ば拒否する課税庁のおかしなこだわりのため、なんとも間の抜けた規定になったといえる。

    実効性に関する疑問

  もう一つの疑問・懸念は、括弧書きで「(当該調査通知に係るものに限る。)」としていることである。

 A税務署→調査通知→X株式会社

           X株式会社→B税務署異動

 A税務署長→必要性ありの判断

       A署当該職員B署当該職員に代わり質問検査→X株式会社

 この図に当てはまればいいのだが、次の場合はどうか。

 A税務署→調査通知→X株式会社

           X株式会社→B税務署へ異動(B署は調査通知せず)

    (間を置かず)X株式会社→C税務署へ異動

  財務省解説の(注2)はB署が調査できた場合の後の異動をいっており、その場合は適用がないとしているのであり、B署が調査着手する前に異動した場合のことではない。

 条文は、A署の「調査通知があった後にその納税地の異動があった場合において……」としている。そうすると、調査忌避者が2署連続で異動した場合、図でいえばB署が調査通知や調査をする前にC署へ異動すれば、A署長の必要性判断も、A署当該職員の質問検査権もできないと読める。

 Xが次々と異動を繰り返しても、A署の調査通知はずっと生き続けると解することは無理であろう。

 この規定を創設した意味は、A署がX株式会社を調査しようとしたのは、それなりの情報を有しており効果的な調査を行えるから、A署の当該職員に調査させようということであろう。

 せっかくの創設もこの規定ぶりでは実効性がないに等しいのではないか。

   新設通達も筋ワル

 なお、国税庁は国税の調査関連通達で1-9を新設し、「当該調査通知を行った場合の調査に限る」のであって、調査通知時の対象税目、対象期間に限定するものではないとしているが、この通達もおかしい。

 調査通知は単なる行政指導の行為であり、対象税目や期間はただ便宜的に通知したに過ぎない。通達の注書きでも調査通知をあたかも法的根拠がある手続きのような書きぶりであるが、それは間違いであるといいたい。

 法的には事前通知を行い、そこで対象税目と対象期間を通知し、その通知以外に非違が認められる場合は通知事項以外についても質問検査権が及ぶことが規定されているのである。
 行政手続の法的な考えが及んでいない筋違いの通達といえる。

  この創設に関しては、行政組織法上からも見過ごせない問題があり別の機会に触れてみたいと思うが、関連する学者・研究者の意見をぜひ聞きたいものだ。