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   問いの答え

 標題の答えは「解消しない」である。後で述べるが、財務省担当者の回答だとされている。
 身も蓋もない答えだが、「インボイス」プレ元年となる年頭にあたり、この問題を考えてみたい。

 令和5年10月から実施されるインボイス制度に向けて、今年10月から「登録事業者」の登録申請が開始される。税理士としては顧問先から相談を受けることであろうし、適切な助言も必要となる。
 例えばゼネコンの下請けである建設業者が年収1千万円以下の一人親方Aさんを外注として使っている場合、多くの税理士はAさんが登録事業者を申請し「適格請求書発行事業者」となれば、免税事業者であったAさんは消費税の課税事業者となり、Aさんへの支払ははばかることなく外注費として処理できると考えるのではないだろうか(経過期間は考慮せず)。
 仮にこの一人親方Aさんの業務が人的役務の提供に限定されており、1人工2万円でひと月25人日と支払者の専属的な外注である場合、税務調査においては外注費ではなく給与所得に該当すると判定され、源泉所得税と消費税が追徴されかねない。税理士としては懸念材料だ。
 しかし、Aさんが登録申請して「適格請求書発行事業者」になれば、本人は事業者であると宣言したのであり、国税庁が審査の上で発行事業者として「公認」したのであるから、調査で外注費を給与だと否認される懸念はなくなると考え、顧問先にもそう説明すると思われる。
 ところが、それは誤りだとの指摘がある。税理士としての責任を問われかねないから注意しろというのだ。

   財務省担当者からのお叱り

 日税連マルチメディア研修「消費税の注意点」(令和2年12月1日配信)で、講師の税理士芦澤光春氏はレジュメに次のように記述している(原文のまま)。
 『支払先がインボイス発行事業者であれば、外注費として、同様に、インボイス発行事業者でなければ給与として処理できる時代が来るのでは?と考えることも、無理はないと思われる
 ある書籍に、その旨を記載したところ、財務省の担当者より、この記述は誤っているとお叱りを受けた
 現在でも、個人事業者の開業届を提出しているか、青色申告で申告しているかと、給与か外注費(事業所得)かの判定とは無関係のように、インボイス発行事業者として登録しているかいないかは支払った費用が、給与か外注費(受領側からすると事業所得)かとは無関係であるということらしい』

 芦澤氏は、自分の書籍に記述した内容が「財務省担当者より誤りだとお叱りを受けた」と恥をさらしてまで記述し、一切の反論もなく注意してほしいとしている。だが、注意するだけでいいのだろうか。

   課税庁のおごり

 給与か外注(事業所得)かの判断問題は、古くは源泉所得税の徴収義務を巡り、消費税導入後は加えて仕入税額控除を巡り、調査で頻繁に争点になってきた。
 様々な業態で給与所得か事業所得かで裁判に持ち込まれ、最判昭和56年4月24日の判断を一応の基準とする流れになっている。いうまでもなく、この最判は消費税が導入される平成元年以前の所得税に関しての判断であり、消費税の課税仕入の是非を直接判断したものではない。
 しかし、消費税導入後も雇用(給与)か請負(事業)かは契約によるが、判然としない場合はこの最判を受ける形で「総合勘案して判定する」と消費税基本通達1-1-1に記している。主語は記述されていないが、通達は上級庁が下級庁に指示する文書であるから、主語は税務職員になる。そのうち、「総合的、俯瞰的に勘案して判定する」となりかねないが、この「総合勘案」なる文言は法律を課税庁が柔軟に運用できるよう、制限的条件を付けずに含みを持たせるためといわれている。租税法律主義を踏みにじること甚だしい。
 この通達は消費税の通達であるにもかかわらず、消費税が前段階税額控除方式の体系を持つ税法であることをまったく視野に入れていない。財務省担当者の「お叱り」は論理も何もないおごりにすぎない。
 インボイスに絡んで、納税者本人が事業者であると認識し、登録して「適格請求書発行事業者」となった場合、消費税の税体系は所得税とまったく違う構造になっているのであるから、所得税法上の所得区分とは関係なくその適格請求書による支払いは仕入税額控除が認められることは当然のことである。
 そもそも課税庁・審判所・裁判所は、一貫して所得税と消費税は違う税法だからと所得税の定義や論理を消費税の判定には適用できないといいはってきた。叱る方も叱られた方も、租税法の規定そっちのけの対応で、いささか情けない。

   消費税の悪業と課税庁の便宜主義

 給与か事業所得かの問題は、消費税がもたらした悪業である。消費税の納税額を減らすため、雇用から外注への切替え、人材派遣というピンハネ業の隆盛、賃金の切下げ志向が雪崩を打つごとく追求され、雇用破壊と低賃金社会の日本となった。
 加えて、資本主義経済において資本はあくなき経済合理性=利潤を追い求めている。
 建設は従来型の資本を用いた請負であるが、そこにおいても業務を効率化するために標準化が追求され、ルールを厳格に定め業務の参加者に厳守させることで取引を意図したとおりに効率的に進むようコントロールし、秩序を維持ずる形になっている。
 一人親方問題の一人親方は、まさにこうした野丁場の建設現場に関わる事業者である。
こうした現場では、元請が下請個々の独立性を認めることはなく、「支払者」が時間的空間的拘束や作業指示といった「総合勘案」の該当項目を差配することはない。
 こうした時代変化があるにもかかわらず、その実態を精査もせず源泉所得税と消費税をダブルで課税することに課税庁は固執し、その武器としての「総合勘案」なるあいまいな基準を変えようとしない。人的役務の提供にあたり必要経費があまり生じない所得への課税方法として、源泉所得税が最も効率的だとする哲学が課税庁にはある。どうも日税連もそれにからめとられているようだ。
 「インボイス」プレ元年、今後さらにいろいろな問題が生じてくるであろう。そのとき、租税法律主義を貫くことを脇においてはならない。