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 いやぁー、実に感服して思わず膝を打った。
 税務調査に対するノウハウ本はたくさん出ているが、これほど鋭い対応策を教えてくれているものはないと思う。

 それは、2020年2月24日付朝日新聞の読者の声に載った投稿である。
 ここに全文を再録し、私見を述べることとする。

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 「桜」答弁を褒めちぎってみた

  無職 河村 正義 (愛知県 61)

 私は企業の経理担当だった。
 「桜を見る会」をめぐる国会答弁は貴重な示唆が多く、経理屋にとって大変ありがたいと感じている。かつて名古屋国税局から指導され、社内に徹底を求めた面倒なことの幾つかは、もはや不要なのだ。
 例えば、会食の参加者と所属の記録。法に基づき7年保管せよとされた。しかし今は、個人情報ゆえに1年内に破棄できるそうだ。
 また今は、領収書の宛名が上様や空欄でも、許される余地があるらしい。国税庁次長は19日、桜を見る会前夜の夕食会の領収書に絡み、「総合的に判断する」と答弁した。かつて我が社では、国税局の厳しい指導により、上様と書かれた領収書で精算するのを禁止したものだった。
 仮に、国税庁が「いや、そうではない」と言うのなら、「総合的」に判断をしなくてもよくなる条件を定義して、その理由を説明してもらいたい。まさか首相が関係する事象だということが、その判断根拠の一つとは言えまい。
 わが国がまだ法治国家というのであれば、何事も定義をつまびらかにし、属人的で恣意的な解釈が入る余地をなくさなければならない。


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 いかがであろうか。
 河村氏はおそらく国税局の調査に何回か立ち会われたのだと推察する。
 国税局調査官の居丈高で権柄づくの調査は、場合によっては交際費の否認などについて大変細かいことを突いてくる。
 5千円基準の適用で、領収書の参加者の氏名や所属を記入していなければ適用を認めず損金不算入として否認するといったものだ。もちろん、この領収書は7年間保管である。保管がなければそれだけで即否認となる。
 仮に、接待する会社や主催者の事情により氏名や所属が記載しきれなかったり、領収書そのものをもらえない事情があり保管できていなかった場合、調査官はそれを「総合的に判断」して否認しないなどということはない。事情を言ってもまるで聞く耳を持ち合わせていないのが調査官であり、これが現実の税務行政である。

 さて、安部首相は国の行政府の長である。
 安部さんは立法府の長であると間違った認識をしている節もあったらしいが(いまも勘違いしていそうだが……)、とにかく紛れもない立法府の長である。
 一方、国会は国権の最高機関である。その最高機関の国会議員には国政調査権が付与されている。
 「桜」をめぐる今の状況は、国権の最高機関が質問や調査をしていることに対して、行政府の長が独自の見解を示して、「私のやったことはすべて正しい」といいはり、調査に応じないという図式である。
 しかも、国税庁まで登場して安部さんを側面支援しているのであるから、投稿者河村氏の指摘は実に的を射ている。というのも、国税庁としては、宛名のない領収書は領収書としては認められないので、夕食会の費用を例えば交際費として計上してもそれは損金として認められないとしか言いようがないのに、……実際に調査ではそういって否認しているのであるから……「総合的に判断する」と言う言葉は出てこようがないのである。

 この事態をもう一歩進んで解釈すれば、行政府の長が、行政はかくあるべきと範を示していることにほかならず、国税庁は長の言うことに従うと宣言したことになる。
 法律などまったく無視していいよというわけだ。
 法律で保存年数などが規定されていても、帳簿や原始記録には個人情報が必ず含まれているから、1年内に破棄してもいい。これを国税の調査で使わない手はない。
 もし仮に、破棄がだめだと調査で否認するといわれたときは、安部さんに立ち会っていただき、国会でも取上げていただこう。

 投稿者の河村氏の鋭い指摘で、税務調査に悩まされている多くの納税者や税理士は、目の前が明るくなったのではないだろうか。