同じ轍を踏む
昨年12月12日、自民・公明は令和2年度税制改正大綱を発表した。12月20日には与党大綱が政府大綱としてそのまま閣議決定された。
改正にあたっての「基本的考え方」はなかなか面白い。政権与党のイライラが募っているのだ。
要は、大企業に大盤振る舞いの減税をやってきたのに、大企業は内部留保として現預金をため込むばかりでちっとも投資や賃上げに使っていないではないか。安倍首相は大企業がもうかればトリクルダウンで下々も潤い、物価は上がるし景気は良くなると国民に宣伝してきた。お前たちは安倍首相の言うことを聞かず、ため込むばかりだからデフレは脱却できないし、景気は良くならないではないかというのだ。
大企業が言うことを聞かないのであれば、安倍の恩恵でため込んできた現預金に課税して政府が取り上げ、政府が国民に分配すれば一気にことは解決する。内部留保課税をやればいいのだが、与党税調はそこには踏み込まない。
何を打ち出したかというと、これまでの延長といえる誘導税制で大企業が現預金を使うようにしようというのである。筆者なら「これまでの轍」税制と名付ける類のものだ。
頭が固いのか、バカなのか、これでデフレ脱却と経済再生ができると考えているとしたら、おめでたすぎる。
突然の源泉所得税推計課税
今回の改正はあまり大きなものはないと一般的にみられているが、筆者は重大な改正が盛り込まれていると捉えた。
それは、源泉所得税に推計課税を導入するという所得税の改正である。
この創設規定は、令和3年1月1日以後に支払われる給与等について適用するとしている。
これまで、源泉所得税については推計課税の規定はなかった。
給与等の支払者は源泉徴収義務が課せられているが、新たに次の措置をとるとしている。
源泉徴収義務者が給与等の源泉所得税を納付しなかった場合、税務署長が支払額と支払日を推計して徴収することができるようにするというのだ。
なお、これまでの推計規定に沿って、青色申告を選択している個人・法人の源泉徴収義務者は除くとしている。しかし、青色源泉徴収義務者、白色源泉徴収義務者などという概念があるのか論理的な検討も必要であろう。
それにしても、青色源泉徴収義務者といえども、青色申告はちょっとしたことで取り消されるから、影響は大きい。
与党税調がいかなる事態をとらえ、どのような議論を行って推計の創設を行おうというのか、与党税調が密室化しているため詳細は不明である。
漏れ伝わるところによれば、不法就労している外国人に対する給与支払いなどで、源泉徴収をしないところが多く、実態がつかめないので推計で徴収しようということではないかというのだ。
会社が未承認のダブルワークの場合も、副業先から給報などが回ると困るため、源泉を行わなかったり、本来は乙欄扱いになるが甲欄で徴収している場合も多いという。これらに投網をかけようというのだろう。
徴税強化の武器に
問題は、推計が創設されると、これが課税庁の武器となり、強権的な課税に使われかねないことだ。
端的な例は、売上除外などの認定賞与課税である。
このような場合、貸付金とか社外流出といった処分は認めないことになりかねない。
売上除外は青色取り消し要因であるから、まず青色を取り消し、除外金を役員等の給与(賞与)と推計して課税できることになる。いわゆるダブルパンチ課税である。
源泉推計課税導入は税務行政の課税権強化に直結するだけに、慎重な審議と枠はめが必要であろう。そもそも源泉徴収制度自体に論争がある。専門家や実務家をはじめ、国会でも慎重に審議してほしいものだ。審議もなく導入を丸のみ成立させないでもらいたい。