最近の税務調査について、行政としての疑問を抱かせる傾向が多い。
結論を先にいえば、調査の実績作りに走って、行政としての理念がないのだ。
基礎控除の引下げに伴い、相続税の申告件数が増えているが、調査も増えているようだ。
相続税の調査で、少し前の調査ではそのようなことがなかった調査手法が取られている。
事前通知を経て調査の初日に調査官が臨場する。調査官は、開口一番「質問応答記録書を取らせてください。」と要求。まだ質問検査権を一切行使していない段階の要求である。
その狙いは、最初に贈与の有無を聞き、それを質問応答記録書に供述として証拠化し、のちの調査展開で贈与が認められれば、贈与を隠蔽したとして重加算税を賦課するためではないかとみられる。こうした調査がほぼ一律に行われていて、上から指示されているようだ。
また、臨場するとすぐに「相続財産以外の所有財産」なるペーパーを納税者や税理士に渡し、記述を迫っている。
相続財産として申告しているのであるから、相続を受けた財産以外の財産は相続人が何らかの形で形成した個人財産である。個人情報の際たるもので、それをなぜ提供しなければならないのであろうか。質問検査権の逸脱も甚だしい。
申告した相続財産以外に、相続で取得した隠し財産を見つけることが調査であって、余りにもご都合主義の調査手法に呆れるばかりだ。
法人税の調査では、倒産防止掛金の損金算入に関し、別表10(6)の添付漏れがあれば即否認だと迫ってくる。
たしかに別表添付が損金算入の要件ではあるが、倒産防止掛金は政策税制であり、国の経済を安定させるという大目標がある。こうした立法趣旨をまったく考えず、別表添付漏れだけで、損金を否認して徴税し、加算税まで賦課して調査実績が上がったとしている。
財務上は損金計上して中小企業は内部資金を充実させ、経営向上と倒産時の対策をとっている。こうしたセーフティネット税制を別表の添付有無だけで否認してはならない。
今後の申告では別表を添付してくださいと指導すれば済む話だ。それで立法趣旨も果たされる。
ところが、その否認で法人税の調査実績が上がったと得意がっている課税庁は、行政をいかなるものと考えているのであろうか。情けない限りだ。
消費税の調査では、他に一切の是正事項がなくても、課否判定誤りでわずか1,000円程度の追徴税額でも修正申告しろと迫ってくる。
消費税固有の非違を上げろと指示が強まっていることの反映であろう。この1,000円のためにどれだけの時間と費用が掛かるのか課税庁は判断したことがないのであろうか。
この処理に費やす調査官の人件費や時間、事務処理費は膨大になろう。納税者や税理士の経済負担や時間の無駄も大きい。
まさに税金の無駄遣いであり、民間経済への無駄強要である。
以前は「少額否認事項」として、指導にとどめた。なぜそうした行政判断ができないのであろうか。
総体として、税務の調査行政はもう少し理念を高く持ってほしいものだ。