詐欺師に騙された、と明言
昨年10月11日、テレビ朝日「報道ステーション」の党首討論で、安倍首相は「籠池さんは詐欺を働く人間。昭恵も騙された。」と発言。
たしかに補助金詐欺容疑で逮捕されているので、そういいたくなる気持ちは分からなくもないが、あくまで被疑者であって被告人にもなっていない(推定無罪)。
刑が確定していない人を「詐欺を働く人間」と決めつけたのだから、籠池氏は名誉棄損で訴えてもいいほどだ。
それはそれとして、籠池氏に「昭恵も騙された」と言い切っているが、どうも金銭被害はなさそうだ。そうすると昭恵さんはどのような被害に遭ったのだろうか。
籠池氏が昭恵さんを騙して得た利益は、言わずもがな。つまり、その件に関して安倍首相は昭恵さんのかかわりを認めているに等しい。
野党はこの発言を問題として認識していないようで、情けない。
詐欺被害……税金面の扱い
ところで、詐欺で金銭的な被害を受けた場合、税金面はどうなるのであろうか。
所得税法第72条は雑損控除を規定している条文で、次のように規定している。
「災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)……総所得金額から控除する。」
政令で定めるやむを得ない支出は、「盗難又は横領による損失が生じた住宅家財等の原状回復のための支出その他これに類する支出」とされている。
詐欺被害も犯罪被害なので、盗難や横領と同じように雑損控除の対象になりそうだが、詐欺による損失は除かれている。その理由は,詐欺に対してはウソか本当かを自分で見誤ったのだから自己責任だよ、ということ。つまり,詐欺は盗難,横領等と異なり,その行為自体に被害者にもかなりの責任があるという理由から雑損控除の対象とならないこととされている。
盗難や横領は自分の意思が介在しないが、詐欺被害は騙されたアンタが悪い。だから税金で面倒は見ないよというわけ。
恐喝で金をせしめられた場合も詐欺と同じで、脅しにのったアナタが悪いとされ、雑損控除はできない。
振り込め詐欺は……
お年寄りが振り込め詐欺に遭って、その被害額を雑損控除してほしいと更正の請求をした事案がある。
税務署は雑損控除の対象にならないとして、更正すべき理由がないと突き返した。
その処分を不服として審査請求したところ、国税不服審判所は税務署の処分は適法であるとした。
裁決要旨は次のとおり。
「請求人は、いわゆる振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失(本件損失)が、雑損控除制度の趣旨・目的に照らせば所得税法第72条《雑損控除》第1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領」による損失、又は「災害」による損失、「盗難」による損失若しくは「横領」による損失のいずれかの損失に当たる旨主張する。
しかしながら、「災害」、「盗難」及び「横領」はいずれも別個の概念であること、また、①上記詐欺の犯人が指定した口座に3回にわたり振込送金した請求人の行為(本件各振込み)自体が、請求人の意思に基づいてなされているから、本件損失は「災害」による損失に当たらないこと、②「盗難」の意義は「財物の占有者の意に反する第三者による当該財物の占有の移転」と解されるところ、本件各振込みが請求人の意思に基づいてなされているから、本件損失は「盗難」による損失に当たらないこと、③「横領」の意義は「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすること」と解されるところ、請求人が振り込んだ金銭に対する所有権は本件各振込みを終えた時点で、当該金銭に対する占有とともに上記詐欺の犯人側へ移転したと認められ、当該犯人はそもそも請求人の物の占有者ではないから、本件損失は「横領」による損失に当たらないことから、本件損失は、所得税法第72条第1項に規定する「災害又は盗難若しくは横領による損失」には当たらない。」(平成23年5月23日裁決)
「自分の意思に基づいてなされている」というのがポイントだ。
昭恵さんには「自己責任」がある
夫の話では昭恵さんも騙されたようだが、うまい話しに乗って自分の意思に基づいて何らかの行為、例えば名誉校長就任を承諾したとかは、自己責任で免罪にならないよというのが裁決から読み取れるであろう。
法人税は損金
一方、法人税においては,詐欺による損失に関する規定はないので、盗難,横領等と同様に,損失として取り扱われることになる。
損失が生じたことには変わりはないとして,特に,詐欺と盗難,横領等について差別を設けていない。
ただ,株主等が責任問題を追及し、該当者に損害賠償を求める場合もあるだろう。もし,会社として詐欺を見抜けなかった者に損害賠償をすれば求償権が利益となり,その額だけ損失が相殺される。
所得税と法人税で扱いが違うので釈然としない向きもあろう。
盗難も横領も管理者責任を問われる場合があるのだから、うまい話を持ち掛けられそれに乗って詐欺にあった場合は対象外とし、振り込め詐欺のようにうまい話に乗ったものでない詐欺被害は雑損控除を認めてもいいのではないだろうか。