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   「課税調査」・「犯則調査」の新用語 

 調査最盛期です。
 最近、税務署では単に「調査」とはいいません。
 税務署の課税部門の職員が行う一般的な税務調査を「課税調査」といい、国税査察官が行ういわゆるマルサの調査を「犯則調査」といいます。いずれも法律用語ではなく、税務署が内部で使っている用語です。
 なぜ「課税調査」と称するようになったのでしょうか。
 それは、マルサの調査は国税犯則取締法に基づいて行われていたわけですが、国税通則法改正でそれが国税通則法に編入されたためです。
 このため、国税通則法上で規定する「調査」が「更正等をするための調査」と「犯則事件を告発するための調査」のふたつを意味することになりました。ですから、単に「調査」といえば、国税通則法上どちらの調査を指し示すのか区別できなくなったのです。
 そこで、税務署内部では、税務署の職員が行う調査を「課税調査」、国税査察官が行う調査を「犯則調査」と区分けしたわけです。

   修正申告の勧奨は 「法律による行政指導」

 というわけで、いま「課税調査」が最盛期を迎え、多くの納税者が調査を受けていると思います。
 何も問題がなければいいのですが、是正事項があれば「調査結果の説明」を受け、そのとき「修正申告をしてください」といわれると思います。課税当局は是正事項があれば原則修正申告の提出を勧奨するとしているからです。この勧奨は、国税通則法第74条の11第3項で「勧奨することができる」と規定されています。
 このため、課税調査における修正申告の勧奨は、「その根拠となる規定が法律に置かれている」行政指導に該当するのです。
 
    調査でよくある事例

 納税者が納得できる是正事項の説明ならいいのですが、調査では往々にして納税者が納得できない是正事項を調査官がゴリ押ししてくる場合があります。
 典型的なのが、所得税調査における家事関連費や必要経費の否認です。
 例えば車輌の減価償却費が100%事業用なのか、そうでないのか。
 調査官は、「土日休日は家事で使っているのではないか」と誘導質問し、その場でよく考えもせず「そんなところですか」などと回答すると、30%は必要経費を否認すると、たいした根拠もなくいってくる場合があります。これを調査結果の説明で突き付けられて修正を勧奨されるわけです。
 納税者は、あの時は何となくそういったが、よく考えてみれば土日も車を使って業務に出向くこともあり、車で買い物や遊びに行くのは年間では何日もない、せいぜい10%が妥当なところだとの思いに至ると、勧奨された修正提出は不当だと判断することになります。
 よくある話ですね。

   納税者救済の充実・拡充のための改正
   
修正申告の勧奨の中止を求めることができるように

 こんなとき、行政手続法の改正が使えます。
 行政手続法第36条の2がそれです。枝番が就いた条文で分かるように改正で創設されたもの。
 この改正は、「国民の救済手続きを充実・拡充する観点から、処分前の手続及び行政指導について整備」することが目的ですから、納税者が使わない手はありません。
 この条文は「行政指導の中止等の求め」を定めています。

 法律の要件に適合しない行政指導を受けたと思う者が、書面により「行政指導中止の申出書」を出した場合、当該行政機関は必要な調査を行い、法律の要件に適合しないと認めるときは行政指導の中止やその他の必要な措置を取らなければならないとされています。
 申出書の様式は定まっていませんので、法律が記載を求めている事項が記入してあればいいのです。

 先に挙げた事例の場合、30%の否認は根拠薄弱で事実と違うわけですから、課税要件に適合していません。つまり違法な内容の修正申告書の提出を行政指導で求められたわけです。
 したがって、任意の書面に必要事項を記載した「行政指導中止の申出書」を提出することが大事です。

   申出で 税務署に見直しの義務

 申出を受けた税務署は、「調査結果の説明」を第三者的立場の者が見直すことになります。
① 説明した内容に誤りがなければ、「結果説明」に誤りがない旨を説明し、再度修正申告の勧奨を行うことになります。
② 調査結果に誤りがあった場合は、見直しを行い、申出に基づき見直しを行った旨と見直し後の内容を「結果説明」し、修正申告を勧奨することになります。

 事例でいえば、別の調査官が検討して30%の否認が根拠に欠け率が多すぎると判断し、納税者のいう10%が妥当と判断すれば、それを是正額として「調査結果の説明」を行うことになるのです。

 調査が終わったのであとは調査官の言うなりに従わなければならないと考えてはいけません。「調査結果の説明」を受けても、納得がいかなければ救済の道があることを覚えておきましょう。

   落とし穴に気を付けよう

 ただし、ちょっとした落とし穴があります。
 同条には「当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、この限りでない。」との規定があります。
 これは、調査官から「調査の結果、車両の減価償却費のうち30%に相当する額は家事に使っているので必要経費として認められません。それを更正すべきと認められますから、法律の規定により修正申告を勧奨できることになります。修正申告を勧奨することについて何か意見はありますか」といわれたとします。
 これは弁明や意見陳述の手続が行われたことになりますから、このときに「土日も仕事をしており30%は納得できない。10%が妥当だ」と意見を言わないとだめです。
 このときに意見を言わないで、その後30%否認の「調査結果の説明」を受けて修正勧奨の行政指導を受けても、それに対しては中止を求めることはできません。
 まあ、大方の調査官は弁明機会の手続をやりませんから、中止の申出はできますが、言った言わないの水掛け論にならないよう、「調査結果の説明」や「修正申告の勧奨」のときは調査官の発言をしっかりとメモ書きしてください。

 こうした規定をよく知り、自分の権利を守りましょう。何よりも、納得いかない調査にて対しては、調査中から頻繁に意見を言うことも大事です。