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   最近増えている事例

 税務調査での重加算税賦課と遡及は、納税者にとっては大事な問題だ。その納税者と顧問契約を結んでいる税理士にとっても正面から向き合わなければならない問題である。
 最近、その重加を賦課する理由として目立つようになっているのが、納税者が収入や財産に関して関与税理士に資料を提出しなかったり、話をしないことを捉えて、「隠ぺい」していたとするものだ。
   最高裁の判決を
    重加ゴリ押しに利用
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   具体的な事案

 事案の納税者はA関与税理士に関与を依頼して申告していた。その申告に対して税務調査があった。
 A税理士立会いの下で調査が進んでいたところ、中古機具を現金で売ったときの領収書が綴りの中にあった。単発取引のため、納税者は記帳せず、収入が過少となっていた。
 納税者のうっかりミスで、領収書を隠蔽したり、書き換えるなどの偽計を行っているわけではない。だから調査官も簡単に計上漏れが把握できたわけだ。
 いってみれば、単純な過少申告である。

 ところがこの調査官は、税理士から聴き取りを行い「質問応答記録書」を作成した。
 その結果、隠ぺい仮装があるので重加算税を賦課するという。
 納税者は納得できないので修正申告の提出を拒否した。そうしたところ、更正処分となった。
 納税者はA税理士の対応に不信を抱き顧問契約を解除し、別のB税理士に依頼した。

  更正理由

 B税理士の手元にある更正通知書に、次の理由が記述されていた。

 「下記のとおり仮装又は隠蔽の事実が認められましたので、重加算税を賦課決定しました。
                記
 売上に係る証ひょう書類を確認したところ、当該金額は中古機具の商品販売に係る現金売上であり、益金に算入すべきであるにもかかわらず次のことから事実を隠蔽して算入していなかったものと認められます。
 1 現金売上に係る証ひょう書類について、貴社の関与税理士であったA税理士から提出要請を受けたにもかかわらず、従業員は代表取締役の指示によりA税理士に対して提出せず、意図的にその売上について会計帳簿への記載が行われないようにしていたこと。」

 一見妥当なように思うかもしれないが、うっかりミスが意図的な隠ぺいとされたといえる。
 「事実を隠蔽して」というが、領収書を破棄したり、売上現金の受領を借入金とか他の行為に偽装しているわけでもない。
 税理士が要請したとなっているが、そもそも領収書綴りをチェックすれば気づくであろう。税理士としては拙い決算処理といえる。
 実態として、記帳を頼りにすればそれを鵜呑みにする税理士は多い。クライアントに「現金の売上はこれで全部ですか」といった程度の質問はするであろうが、記帳漏れに気が付かない納税者は「全部だと思いますよ」ぐらいの回答をし、税理士も「わかりました」程度で処理することになるだろう。
 税理士から、「私にすべてを提示しなかったり、告知しなかった場合は隠蔽にあたりますよ」と言われた納税者がいるだろうか。逆にこのような物言いをする税理士がいるとも思えない。
 クライアントを端から疑うような物言いで、顧客との関係はうまくいかないからだ。

 このようなやりとりが、ちょっとした加工で180度違ったものになる。
 調査官が、国税庁の管理下にある税理士に脅しをかけることはたやすい。税理士から聴き取りをして、「質問応答記録書」を作成し、それを証拠とすれば重加をかけられるというわけだ。
 この事案も税理士が「質問応答記録書」を取られていた。
 それは、税理士が現金売上の証ひょう書類を税理士に提出するよう要請したが、提出がなかったという供述である。
 この供述された行為にもう一つ加わる。「提出をせず、意図的にその売上の事実について会計帳簿への記載が行われないようにし」たと認定する。
 つまり納税者が税理士に証憑を提出しなかったことが脱税を意図し隠ぺいを外部からも伺うことができる行為だというのだ。

   背景に最高裁判決


 この理由による重加の賦課が目立つようになった背景に、最高裁の平成7年4月28日の判決がある。
 株の譲渡を巡る所得税の重加算税賦課事件で、最高裁は次の判決を行った。
 最高裁は判決でまず、「重加算税を課すためには、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するのである。」とする。
 条文の解釈から言って当然の解釈である。
 ところが、「しかし、重加算税制度の趣旨にかんがみれば、資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもからもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。」と、隠ぺいや仮葬という行為の存在を事実上課税要件から外してしまう解釈を展開する。
 重加の賦課要件は、国税通則法第68条で「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」と規定している。事実の隠ぺい・仮装という行為があり、それに基づき申告書を提出したことが要件である。
 最高裁は趣旨解釈をすれば、隠ぺい・仮装の行為がなくても、過少申告する意図とそれがなんとなくわかる行動があれば重加を賦課できるという。これは趣旨解釈というより、拡大解釈ではないか。

 最高裁は更に続けて、
 「これを本件について見ると、上告人は、昭和六〇年から六二年までの三箇年にわたって、被上告人に所得税の確定申告をするに当たり、株式等の売買による前記多額の雑所得を申告すべきことを熟知しながら、あえて申告書にこれを全く記載しなかったのみならず、右各年分の確定申告書の作成を顧問税理士に依頼した際に、同税理士から、その都度、同売買による所得の有無について質問を受け、資料の提出も求められたにもかかわらず、確定的な脱税の意思に基づいて、右所得のあることを同税理士に対して秘匿し、何らの資料も提供することなく、同税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させ、これを被上告人に提出したというのである。もとより、税理士は、納税者の求めに応じて税務代理、税務書類の作成等の事務を行うことを業とするものであるから(税理士法二条)、税理士に対する所得の秘匿等の行為を税務官公署に対するそれと同視することはできないが、他面、税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり(同法一条)、納税者が課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装していることを知ったときは、その是正をするよう助言する義務を負うものであって(同法四一条の三)、右事務を行うについて納税者の家族や使用人のようにその単なる履行補助者の立場にとどまるものではない。
 右によれば、上告人は、当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基づいて上告人のした本件の過少申告行為は、国税通則法六八条一項所定の重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。所論の点に関する原審の判断は右の趣旨に帰するものであるから、これを正当として是認することができる。右判断は所論引用の判例に抵触するものではなく、原判決に所論の違法はない。」
として上告を棄却した。
 税理士に対して存外な評価を与えており、税理士としてはこそばゆいが、逆に税理士としてはクライアントに「すべてを提示しろ」といわないと、税理士自身の処分に跳ね返ってきかねないことになる。実態を度外視して、それこそ意図的に解釈と事実認定をしたものだ。

   白または灰色をクセ玉で黒にする行政

 この最高裁判決を奇貨として、税務調査で重加対象でもないのに重加を賦課する手段として使われているというわけだ。
 重加を賦課するために税理士を使うというのはクセ玉もいいところ。
 条文に基づいて真っ向勝負し、隠ぺい仮装の行為が認定できなければ重加の賦課はできないと、課税当局は当たり前の行政をしてほしい。