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   関税法プラス刑事訴訟法

 国税犯則取締法を廃止し、国税通則法にそれを盛り込む改正法案が審議中です。
 今の国会勢力からすれば、何の修正もなく提出法案が成立することになるでしょう。
 国犯法が廃止されるということは、査察制度がなくなるのかと早とちりしてはいけません。国犯法をほぼ全条取り込んだうえに、少しの近代化と刑事訴訟法の改正による捜査権の拡大を取り入れて、新規オープンすると思ってください。
 ざっくばらんにいうと、捜査権は拡大します。

 新規オープンの犯則取締りは、国税通則法に「第11章 犯則事件の調査及び処分」として第131条から第160条までの30条分が盛り込まれました。
 国犯法が全22条の法案でしたから、8条増えています。
 法案の体裁は、関税法の犯則事件に関する条文とほぼ横並びで、それに加えて関税法の犯則では条文のない電磁的記録に関する条文を刑訴法改正による条文にならって取り入れています。

   改正の特徴と問題点

① 当該職員
 国犯法では「収税官吏」が国犯法に基づく調査や処分ができると規定されたいましたが、これが「国税庁等の当該職員」となります。
 これまでは、いわゆる「査察官」ということがはっきりしていたわけですが、「当該職員」となると税務署の一般調査官もこの第11章の調査ができると勘違いする者が出てくる可能性があります。犯則事件の調査は「国税査察官」と官職を鮮明に条文に書き込むべきです。
② 出頭
 第131条(国犯法第1条に対応)で「出頭を求め」と、これまでになかった呼出しを明記しました。これは任意調査の範囲ですから、強制ではありません。
 刑訴法では、第198条で「① 出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退出することができる。② 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。」と規定されていますが、改正条文ではその書き込みがありません。刑訴法を取り込んでいながら、出頭を求められた人に対する「権利」を書き込まないところがいかにもであり、刑訴法と同じように書き込むべきです。
③ 電磁的記録・電子計算機等の差押
 今の時代からすれば致し方のない話のようですが、パソコンの記録容量はいまや絶大で、なんでも記録されているのが実態だとおもいます。
 差押えはいわゆる強制ですから、裁判所の許可状で特定されたものということになりますが、特定されていない記録も差し押さえられる可能性が避けがたく生ずると懸念されます。
 差押を受けるものに協力を求めることができるとしていますが、強制規定ではありませんから、査察官が独自判断で差押可能です。
 査察に踏み込まれてパソコンを根こそぎ差し押さえられる場合、私的な個人情報等も持って行かれてしまう虞が格段に広がったといえますので、納税者による情報の確認という手当が明記されるべきでしょう。
④ 通信物差押、通信履歴の保全
 通信物の差押や通信履歴の保全が新設されました。刑事もののドラマでお馴染みの話ですが、刑訴法をそのまま持ってきたわけですから、同じ捜査が展開されると思っていいでしょう。通信の秘密との関連で問題が生じやすく、慎重であるべきだと思います。
 前項の③とも合わせて今回の改正を見ると、租税犯が限りなく刑事事件と同じ扱いに位置付けられたといえます。
⑤ 立会の「鄰佑」から「隣人」
 査察官の捜索に当たっては立会いが強制規定されています。当然の話ですが、国犯法ではその中に隣の知り合いが入っていました。言葉は「鄰佑」となっていますが、具体的には「隣人で相い助け合っている者」つまり仲間ということです。それは立会人は処分を受ける側に立って、処分の公正を見守るべきものですから、処分を受けるものと利害が相反する者は立会人としてはダメだということからです。
 「鄰佑」というのは単なる隣人ということではなく、納税者の権利を保護する意味があるのです。
 それが改正では単に「隣人」とされました。改正前の意味を理解していなければ、利害の反する隣人を立会人とする恐れがあります。それでは公正さが確保できません。
 立会人は「利害が相反する者を除く」と明記すべきです。

 このように、ごくかいつまんで国犯法の改正と問題点を見てみました。
 時代に合わせたような改正趣旨ですが、刑事犯と同じ扱いになったといえますから、そうであるなら供述拒否権の告知など、きちんと整備すべきです。
 税調の議論も技術的すぎ、基本的人権を守るという憲法視点が欠如しています。
 憲法学者がこの問題に関心を寄せている様子はありませんが、憲法の視点から大いに議論していただきたいものです。