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    法人税率35%を15%に引き下げると公約

 次期アメリカ大統領トランプが選挙公約でブチ上げた税制面の施策で注目すべきは、法人税率の大幅引き下げであろう。
 アメリカの法人税率は15%から最高35%までの累進税率となっている。トランプはこれを15%のフラット税率にするというのだ。

    手本となるアメリカの法人税

 レーガン大統領のころのアメリカは深刻な双子の赤字に見舞われていた。貿易赤字と財政赤字である。
 財政赤字の主要な原因は軍事費であり、赤字解消のためにその削減は大きな課題であった。
 もう一つは税収確保で、アメリカは高い法人税率を維持した。しかも累進税率を導入しており、アメリカの法人税は世界的に貴重な存在といえる。
 実はこれがアメリカの財政赤字を救うことになる。

    税収弾性値の高い法人税

 というのも、直接税は税収弾性値が1.5以上と高いからである。
 間接税の消費税については、税収弾性値を1.0と財務省はしている。
 税収弾性値というのは、経済成長が1%の場合、税収がその成長率をどのぐらい反映して伸びるのかという指数である。
 経済成長が1%で例えばGDPが1000から1010になったとしたら、税収弾性値1.0の消費税なら80が80.8の税収になるということ。成長率1%対して、税収の伸びも比例して1%しか伸びない。
 一方同じGDPの伸びで税収弾性値1.5の法人税ならどうなるか。比較のために法人税率を消費税率と同じ8%としたら、1000で80の税収が1010で81.2になる。成長率1%に対して、税収は1.5%伸びる。
 お分かりのように、直接税を基幹税制に据えていれば、経済成長が税収を加速させて、財政赤字は解消に向かう。アメリカはこのことがよくわかっているわけだ。アメリカは財政赤字を基本的に解消した。直接税中心主義を貫いているからだ。
 直接税は好況の影響で税収弾性値はさらに高くなる傾向にあるから、1.7とか1.8になる。その上税率が高ければ、税収はぐっと伸びる。

   消費税を基幹税制にする諸国の実態

 よく見てほしいのが、付加価値税を基幹税制としているヨーロッパ諸国が財政難であえいでいることだ。税収弾性値の低い消費税を基幹税としたことで、景気が回復しても税収が伸びず、財政難が解消できない。
 日本もこのドツボにはまっている。
 アベノミクスがもたらしているのは財政赤字の促進である。
 消費税を5%から8%に引上げても経済成長以上に税収は伸びず、国の借金は膨らむ一方である。税収弾性値の高い法人税率を引き下げているからに他ならない。
 アメリカは、なんて馬鹿な財政政策を展開しているのかと日本を嗤っているはずだ。

   トランプが引き起こすこと

 そのアメリカが、最高35%の法人税率を一気に15%に引き下げるという。もし本当に実行するとしたら、世界的に深刻な事態を招こう。
 アメリカは、外国企業誘致のために法人税率を12.5%に引き下げたアイルランドに続くタックスヘイブン国になる。アイルランドに本店をもっていくには抵抗のある日本企業も、アメリカなら本店を置くことに躊躇しないであろう。
 対抗上、日本も法人税率を15%に一気に引き下げざるを得ない。こうして、際限のない法人税率引下げ競争がおき、各国が財政赤字に苦しみ、そのつけを庶民増税でカバーするため、世界的な消費不況となる。

 アメリカでトランプという蝶々が羽ばたいたら、世界中に暴風が吹き荒れることになりかねない。それはアメリカにも跳ね返り、暴風に巻きあげられることになろう。
 誰かがトランプを止めなければならない。
 この警鐘が杞憂に終わることを願うばかりだ。