<改正前>
利益積立金のマイナスをゼロとしてはならない
22年度税制改正で法人の清算確定事業年度における課税方法が、これまでの財産法から損益法に改正された。22年10月1日以降適用となる。
経済状況を反映して、解散や清算する会社が後を絶たない。また、法人を分割したあと、一つを清算するという組織再編も盛んに行われている。そうしたなか、9月30日までに清算確定をする場合もあろう。その場合は財産法により清算所得を算定する。
清算所得は次の算式で算出される(法法93)。
清算所得=残余財産の時価-(資本金等の額+利益積立金額等)
ここで注意が必要だ。利益積立金がマイナスの場合、多くの解説書は利益積立金は課税済みが反映されたものだから、法人税法上明確な規定はないが、マイナスの場合は「0」として計算するとしている。
これは間違い。このため、資産に含み益があると課税が発生する場合がある。
<事例> A社の解散時のB/S
資産(簿価) 5,000・・・・時価30,000
借入金 25,000
資本金 5,000
利益剰余金 △25,000
清算確定事業年度で資産を時価で売却し、借入金の返済にあてて清算に入ると売却益の25,000は課税対象にはならず財産法で清算所得を算出する。
残余財産=30,000-25,000=5,000 (=現金30,000-借入金25,000)
×誤り処理 清算所得 残余財産 資本金等の額 利益積立金
0 = 5,000 - ( 5,000 + 0 )
○正当処理 清算所得 残余財産 資本金等の額 利益積立金
清算所得 = 5,000 - ( 5,000 + △25,000 )
= 5,000 - ( △20,000 )
= 5,000 - 0
= 5,000
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
つまり、資本等の額と利益積立金額の合計がマイナスになったときは、マイナス額を「控除」することはあり得ないので、マイナスを足すことはない。そこで控除額は0となり、残余財産の額が確定する。
そうすると、含み益5,000が現れてそれが清算所得となり課税されるわけだが、この含み益は前期以前の事業年度で法人税が課されていない利益積立金といえるのだから、財産法において課税となるのは当然のこととなる。
解説書の方法で清算所得を0として申告した事件で、審判所は誤りであるとの裁決を出している(21.11.27国税不服審判所)。
国税庁は詳しい情報提供を
改正後は通常の損益法になる。
事例では、清算確定事業年度の売却益25,000が課税となる。
一方、改正後は、実態貸借対照表で残余財産がないと見込まれるときは期限切れ繰越欠損金を使えるということだが、この例では残余財産ありとなり、期限切れ繰越欠損金は使えそうもない。ただし、期限内の繰越欠損金は使えるので、仮に繰越欠損金が10,000あれば課税所得は15,000となり、改正前後で税金の負担が変わってくる。それらを判定しなければ、残余財産の分配を巡る問題にも発展しかねない。
改正法の適用時期が迫っているとき、誤った解説書によって駆け込み清算確定をする場合もあるだろう。国税庁はもっと丁寧に各種の情報を提供すべきではないのか。