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 税金の情報誌などで、グループ法人税制が盛んに取り上げられている。
 実務的な処理方法が発信され続けているが、グループ法人税制の根本を解き明かすものが見当たらず、本当にこれでいいのか危惧を覚える。
 そこで、少し問題提起をしてみたい。

<グループ法人税制創設までの経過をみる>
 会社法制の改正と法人税改正の経過を表にした。

 法 制税 制企業会計
平成9年純粋持株会社解禁 連結中心の会計制度
平成11年株式交換・移転制度の導入株式交換・移転制度(租特)  
平成12年会社分割制度の創設組織再編税制の創設(平成13年) 
平成13年自己株(金庫株)取得原則自由化自己株を有価証券から除外(資本取引) 
平成14年商法における連結計算書類の導入連結納税制度の創設 
平成16年 連結付加税2%の廃止 
平成18年会社法施行組織再編税制の改正(株式交換・移転制度の本法への統合)企業結合・事業分離会計の整備
平成21年  企業結合・事業分離会計の改正(持分プーリング法の廃止)
平成22年 グループ法人税制の創設 

 なぜ、改正に次ぐ改正が行われてきたのか。
 バブル崩壊後、企業の統廃合、企業グループ重視が加速する。それは、不良債権処理と資金調達問題の解決が迫られたことによる。
 平成12年商法改正により導入された会社分割制度に対応し、法人税が改正された。
 それまでの合併に係る合併差益課税、現物出資に係る圧縮記帳制度を大きく変更し、合併・会社分割・現物出資・事後設立を適格と非適格に区分したうえ、適格組織再編であれば資産負債の簿価移転として含み損益の課税を繰り延べや青色欠損金の引き継ぎを認めることとし、非適格組織再編であれば時価での譲渡、青色欠損金引き継ぎ不可とする組織再編税制が導入された(平成13年度)。
 平成14年度には連結納税制度が導入され、これまでの単体法人のみを納税単位とする法人税制とまったく違う税制が導入された。
 特徴点は、連結法人間の所得通算、資産取引による譲渡損益の繰り延べ、適用開始や加入時に当該法人資産の時価評価による評価損益計上、子法人単体時青色欠損金の控除不可などである。なお、各単体納税に比べると大幅な減税となるため2年間に限り付加税2%が措置された。
 12年の商法改正から会社法の概念が壊れてきた。
 平成18年には新会社法が施行され、会社法の破壊(整合性のなさ)は決定的になってきた。規制から規制緩和に転換し、会社の設計や運営を会社自治に委ねる方向になった。要は、3分の2以上の特別決議で何でもできることに。
 これらを受けて大企業はグループの一体運営を加速し、中小企業も大企業からの要請も含め、100%子会社の設立・取得が行われている。
 日本経団連は専門部会を設置して、グループ経営に対応する税制改正要求を検討し、経産省、財務省主税局を巻き込んで勉強会を組織。平成21年7月に「論点とりまとめ」を公表した。
 経産省はこの「論点とりまとめ」を改正要求とし、要求はほぼ全面にわたって平成22年度税制改正に反映された。
 端的にいえば、組織再編税制・連結納税制度により、単体経済人として課税するという基本構造とはまったく別の法人税が「並列」して導入されたことになり、その考え方がグループ法人税制の創設という形で拡大された(強制適用)。

<大幅減税>
 導入目的からみても明らかなように、この一連のグループ法人税制は大幅減税となる。連結納税制度導入時の減収は平年度で8千億円である。ところが、組織再編税制と今回のグループ法人税制の創設について財務省は減収額を示していない。課税の繰り延べは減収と見ないということらしい。しかし、恒久的に課税が繰り延べられるものもあろう。繰越欠損金の利用拡大はそのまま減収に結び付く。
 組織再編税制・連結納税制度は選択制であり、タックスプランニングしだいで納税額は大きく違ってくる。このため、組織再編税制、連結納税については包括的な行為計算否認規定を創設したが(法法第132の2、132の3)、今回のグループ法人税制の創設に関してはこの規定がない。強制適用というが、グループ関係や行為はいかようにもなすことができるので、大きな逋脱行為を見逃すことになりかねない。

<何が問題か>
 組織再編税制・連結納税制度・グループ法人税制というのは、資本の論理として、同一の株主利益の追求が継続している限りにおいては、キャピタルゲイン、資本の増加価値に対して課税を繰り延べるというもの。しかし、寄附金に見るように、単体法人税間で利益積立金の移動が自由化されるといってもいい取扱いである。これは株主だけを見れば同じ持ち物だからいいではないかといえるかもしれないが、各単体法人には債権・債務者がおり、賃金を受ける労働者がいる。取引先や勤務会社は儲かっており、資金も潤沢にあると安心していたら、ある日突然、利益積立金はカスカスになっていたということになるわけで、労働者を含む債権者の立場は全く考慮しない制度なのである。
 資本の効率化だけが財界の求めに応じてまかり通った形で、究極まで行き着けば、法人に課税する根本はなにかという問題に突き当たる。
 具体的には……
 ① 資金調達で大企業に格段の有利さ
  コストゼロで効率よくリスクのない形で資金調達・設備投資を行い活用
  妥当な競争を阻害………中小零細企業の衰退
 ② 債権者、労働者への影響無視
  この税制の経済実態を内部の資金移動と捉える欺瞞
  企業に関する哲学・思想の破壊………企業は資本だけで成り立っていない
 ③ 税収の不安定化
  法人税の崩壊、法人税収の不安定化、消費税増税の導入管

 グループ法人税制について批判的分析は皆無の状態である。こぞって創設妥当とし、その解説本が書店に溢れている。学究による根本的な検討が俟たれるところだ。