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       原則と例外を法律化

 国税通則法が改正され、税務調査は「事前通知」が原則となった。
 条文は次のような構成になっている。わかりやすくするため、カッコ書きや接続詞等を整理している。

 第七十四条の九 税務署長は、税務職員に納税義務者に対し実地の調査において質問・検査又は提示若しくは提出の要求を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者等に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。

 第七十四条の十 前条の規定にかかわらず、税務署長が納税義務者の申告、過去の調査結果、事業内容、税務署が保有する情報からみて、違法・不当行為を容易にし、正確な課税標準・税額の把握を困難にし、調査の適正な遂行に支障を及ぼすと認める場合には、前条による通知を要しない。

 つまり、74の9で原則取扱いを規定し、次条の74の10で「前条にかかわらず」この条文で列挙する特殊な場合は通知しないとしている。
 これはだれがどう読もうと、実地調査は通知が原則で、特殊な場合だけ通知しないということだ、となる。
 だから当然というか、国税庁の事務運営指針では「納税義務者に対し実地の調査を行う場合には、原則として、調査の対象となる納税義務者及び税務代理人の双方に対し、調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて、電話等により、法第74条の9第1項に基づき、実地の調査において質問検査等を行う旨、並びに同項各号及び国税通則法施行令第30条の4に規定する事項を事前通知する。」と記述している。
 一般納税者向FAQ問18では、「実地の調査を行う場合には、原則として、調査の対象となる納税者の方に対して、調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、電話等により、実地の調査を行う旨、調査を開始する日時・場所や調査の対象となる税目・課税期間、調査の目的などを通知します。」と記述している。

 「原則」という文言が74の9の条文に書き込まれているわけではないが、条文構成がそう規定しているから、国税庁も「原則として」と明記したわけだ。
 「原則」というのは、「根本的な規則」である。それにも「かかわらず」というのは、極めて特殊な例外の場合に許されるという関係である。
 それが国税通則法で規定されたことに意味がある。
 行政手続法の特別法として行政手続きが規定されたわけだから、手続の厳格運用はまさに新しく規定された条文で判定されることになる。
 74の10に列挙された特殊事情に該当しないにもかかわらず、実地調査で事前通知をしないとなれば、それは手続瑕疵に当たり、調査自体が無効になるということになる。
 まだ、裁判事例はないが、納税者の権利を守るためにどんどん訴訟を起こして判決を出させ、事前通知をしない例外規定と調査無効の関係を積み上げていく必要があろう。
 法律化されたということは、重いことなのだ。

 建設工事業に8名が無予告で臨場
 旧態依然の発想を引きずる?

 改正通則法が適用となって、初めて無予告の臨場があった。局料調の単独事案だという。
 事務所として、無予告でくる理由が定かでないことから事前通知を原則とする改正趣旨に反すること、突然来られても対応できないことから、別の日にしてもらった。
 何人が来たのか確認すると、本店と資材置き場に5名が臨場したが、あと3名が別の場所に待機しているということだった。総勢8名による無予告現況調査を目論んだわけだ。
 臨場した調査官たちはゴリ押しすることなくこちらの要求に応じたので、その点は任意調査をわきまえた対応であった。
 調査官側からすれば、無予告現況調査は空振りに終わったということになる。
 今後の調査展開は別として、無予告の調査は今までもそうだが、これからはさらに空振りに終わるケースが多くなるであろう。
 税理士が関与していて、無予告調査にすんなり対応するようなら、その税理士の不勉強が明らかとなり、顧客は税理士の立ち位置を鋭く判定し、顧客と税理士の関係は一気に瓦解することになる。
 税理士にとってみれば、納税者の不利益を排除し、その営業を守るために、改正通則法をどのように生かしていくのかは死活問題になっていく。
 通則法の改正は、否応なく大きな転換を生じさせるのだ。
 ところが今回の無予告臨場を見ても、この大転換ということを課税庁が捉えきれず、旧態依然の発想に縛られていると感じた。

 税務職員は知っている
 税務職員と税金の無駄遣い

 無予告現況調査、ガサ入れ、という調査を指令されたり、その調査に動員されると、まるで査察官にでもなったように張り切る税務職員と、やれやれとげんなりする税務職員がいるという。
 調査の事前通知問題で、税理士会が行ったアンケート調査結果や、無予告現況調査を受けた納税者や税理士がその実態を赤裸々に綴った文章がある。判例等も数多くある。
 税務職員が組織する全国税労働組合による機関紙や、研究集会の発表文書もある。
 税務当局が正式に数値を発表しているわけではないが、これらの資料・情報から判断すると、無予告現況調査は実に非効率な調査手法であることが読み取れる。
 10件やって1件当たればいいというのが労働組合の情報である。税理士仲間の話からいっても、無予告現況調査で税務署が望む結果に結びつくのは殆どない。
 つまり、打率1割以下。

 無予告現況調査に着手するために、内外観調査を行い、本店、支店、工場、倉庫、駐車場、取引先、取引銀行で踏み込む対象を絞り込み、職員の配置を決める。それに見合う何人かの調査官の日程を調整して調査日を確保し、その後の展開を机上で予定して予備日も確保する。
 署には、それらのものから集まる情報をまとめるセンターを置き、職員を配置しなければならない。
 着手当日に会社であれば代表者を押さえるために、代表者の素行調査を行って会社にいる曜日を確定したり、会社が移転していないか着手前日に登記簿を確認するなどに日数をかける。
 いうまでもないが、担当職員はこれに縛られて他の調査を入れることはできない。

 さて、着手だ。ところが代表者の都合が悪く、着手日は対応できないとなれば、任意調査だから身柄を拘束して調査に立ち会わせることはできない。
 たまに強引に引っ張りまわし、後で問題化する場合もあるが、平成12年の判決以降当局も注意するようになったので、結局は職員引上げとなる。
 動員した職員、待機していた職員は、結局何も調査もできずに無駄足を踏む。
 無予告現況調査をやって、税務職員を大量に動員して、10件に9件はこんな結果だというのだ。

 労働組合によれば、無予告現況調査をその署の年間調査件数に必ず何件か入れろと上から指示されるという。
 税理士会のアンケート結果からすれば、どうも調査件数全体の10%程度が無予告となっている。
 仮にA署が年間100件を調査するとした場合、10件が無予告調査である。仮に無予告調査で100%が不正発見に結びつき、事前通知した調査では不正発見がゼロだとすれば、年間の不正発見割合は10%となる。
 これが無予告調査の打率は1割というのだから、無予告の不正は1件で、他になければ年間の不正発見割合は1%だ。そんな数字となる。
 ところが、当局の発表によれば、全体の不正発見割合は30%前後である。
 これをA署に当てはめると、事前通知をした調査で29件の不正を発見し、無予告調査で1件の不正を発見したという勘定だ。
 無予告現況調査は、実態として実に非効率で税務職員と税金を無駄に遣う調査なのである。

 理由のない無予告調査は通用しない

 改正通則法が事前通知を原則とした。無予告で着手する場合は特殊事情がある場合だけである。任意の税務調査は納税者の協力の下で展開される。仮に無予告で着手する場合、納税者が調査を受けることに同意する説得ができなくては税務職員として失格だ。
 理由を説明することは法令化されていないから説明することはないとしているが、逆に言えば説明してはいけないとも法律には書いていない。
 税務職員が納税者を説得できないで、無予告現況調査をゴリ押しすれば、違法調査で調査自体が無効となった過去の事例の再現となる。
 無予告現況調査をすべて否定するわけではないが、74の10にカッチリあてはまる納税者を厳選して、調査に当たる税務職員が無予告で臨場した理由を自信を持って説明できるようにしなければ、税務署に対する信頼度は低下するばかりであろう。
 通則法の改正を機に、課税庁の幹部のみなさんによく考えてもらいたいと思う。