ze42.jpg

 

  3.13重税反対行動における決起集会で小田川税理士が講演しました。
 消費税の問題点がよくわかったと好評でしたので、 講演録を掲載します。

 今日は、消費税増税が迫ってきていますので、それに怒りを持ってもらい、まだまだ阻止は可能ですから、その運動の原動力になるようなお話をしたいと思います。

 なんといっても、税金とその使い道である予算は政治そのものですから、いつの時代でも税金をめぐる闘いは重要なのですが、とりわけここ2、3年は大きな山場だといえます。
 みなさんご存知の通り、消費税が来年4月に8%、再来年10月に10%と、足掛け3年で今の倍になる仕掛けが成立しております。くわえて、3年後の1月から国民総背番号制を実施するための法案が3月1日に上程されました。
 これはどういうことか、ということをはっきりさせたいと思います。

 日本の人口はいま推計値で1億2千5百万人です。このうち働いて得た収入で生活している人、いわゆる勤労所得で生活している人は家族含めて1億人です。給与所得者、中小業者、農林水産業の人たちですが、これに年金生活者を加えると1億1千8百万人となります。
 ですから、総人口の95%が勤労で得た所得でなんとか生活をしている、いわば普通の国民といえます。消費税の増税はここをターゲットにしているのです。

 毎日ごはん食べますよね。誰も実感してないと思いますが、3度のご飯を食べるたびに5%の消費税を国と地方自治体に払っているわけです。
 一口食べる都度、1円税金とられた、なんて考えながら食べていては体に毒ですからお勧めしませんけれど、これが10%になったら、一口食べて2円税金払った、一善食べたら10円税金払ったと怒りに燃えてご飯を食べてもらいたいですね。

 お酒やたばこ、私も嫌いではありませんので晩酌を楽しんでいますが、お酒やたばこの値段はすでに酒税やたばこ税が乗っかっています。ガソリンも揮発油税が乗っかっています。
 350ml1缶200円のビールは77円が税金、1箱410円のたばこは244円が税金、ガソリン1リットル150円だとすれば約50円が税金です。これらは個別消費税といいますが、これにさらに消費税がかけられているわけです。
 税金に税金をかけているのですよ。滅茶苦茶おかしいでしょう?

 今日お持ちの確定申告で所得税が10万円だったとします。申告書を提出したら、税務職員が所得税10万円に消費税が5%かかりますのであと5千円の消費税を納めていただきます、といったら皆さんは「ふざけんな」と怒るでしょう。
 怒って当たり前、消費税は課税資産の譲渡に課税する税金ですから、税金は不課税なのです。
 ところが、お酒、たばこ、ガソリンでは、そこに組み込まれている税金が課税資産とされ、不課税になっていません。だから、税金に消費税が掛けられているのです。
 法律違反ですよ。でも、誰も文句も言わずに酒を買い、車に乗って、消費税を払っています。私も含めてなのですが、振り込め詐欺とあんまり変わらない手法でうまく政府にやられているわけです。
 みなさん、ふざけんなと怒りましょうよ。
 ただし怒りながら飲むと悪い酒になりますし、車の運転で燃料メーターを見るたびに怒っていると事故を起こしますから、そこは注意してください。

 ご飯の話に戻りますが、5キロ2,000円のコメがいまは2,100円で買えますが、10%になれば2,200円なければ買えなくなります。収入が減って実入りがギリギリになれば、この100円、200円が工面できないこともあるわけです。
 食い盛りの子供がいれば、どうしてもコメを買わなければならないので、米屋さんに行って2,000円分を量り売りで買わざるを得ません。
 いまどき量り売りしてくれる米屋さんがいるとも思いませんが、親切な米屋さんがいいよと応じてくれたとして、商売ですから、2,000円だと4.5キロだよとなるわけです。
 子供が痩せ細っていくのですよ、消費税の増税で。

 考えてみてください。
 5キロ買えていたものが4.5キロしか買えなくなるということは、0.5キロのコメを年貢で取り上げられたのと同じでしょう。「越後屋、お前もワルよのう」の越後屋が出てくる時代劇の世界ではなくて、この時代が、江戸時代と変わらないのです。

 江戸時代に神尾春央(かんお はるひで)若狭守という勘定奉行がいました。カミの尾っぽと書いて「かんお」というのですが、この勘定奉行は八代将軍吉宗の享保の改革で腕を振るったのですが、「ゴマの油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」と言い、実際に苛斂誅求の取り立てを行って農民の猛反発を買いました。
 「5公5民」とか、「百姓は生かさず殺さず」なんて言葉も思い出しますが、今度の消費税増税の実像は「絞れば絞るほど出る」「生かさず殺さず」というのに近いのです。

 公明党さんが、基礎食料品には軽減税率を適用して、低所得者の負担を少なくしようといっていますが、江戸時代と同じことをやれば国民の反発を買って、一揆を起こされるのが怖いからですよ。
 逆に言えば、自公民の増税3兄弟は、酷な増税だということを知っていて、国民をなだめながら、つまり「生かさず殺さず」搾り取るという戦略をとっているということです。

 仮に、基礎食料品をゼロ税率にするとします。そうすると、税額を算出するには複雑な作業が必要となります。
 ゼロ税率というのは、輸出免税と同じ仕組みになりますから、消費税の還付も起きます。ですから、せっかく引き上げても税収が減ってしまうと財務省は反対しています。

 複数税率になれば、帳簿方式では正確に対応できませんから、インボイス、つまり業者番号と税率・税額を記載した送り状を付けて売り上げ、買った方はそのインボイスに記載されている税額を集計して仕入税額を控除するという仕組みにならざるを得ません。
 財務省出身の御用学者である森信茂樹という教授が力説していて、そのためには国民総背番号制度が必要になるという具合です。

 インボイスを発行できるのは課税事業者に限られていますから、インボイスを発行できない免税事業者は商売の流れから排除されることになります。免税事業者から仕入れても、買ったほうは仕入税額を控除できないから当然そうなります。
 商売できなくなれば困るので、1千万円以下の売上でも課税事業者を選択して、消費税の納税義務者になるしかなくなります。
 中小零細業者にとってみれば、生活必需品で税金を絞りとられ、転嫁できなければ自分で消費税をかぶり、事務が複雑になって負担が増大しますから、最低で三重の負担増となります。

 中小業者にとって転嫁問題は大問題ですよ。
 8%、10%になったとき、売上で確実にその率を乗っけて代金をもらわなければ、仕入や原価の支払はその率で引上げられた金額を支払いますので、手元に残る現金が確実に減ります。
 ところが、消費税を申告する段では、5%しか乗っけられなかったので5%で計算したといっても許してくれません。課税売上に対して、容赦なく8、10%が適用されるのです。
 そうすると、粗利率や労務費の額などに左右されますが、転嫁できなかった場合は転嫁できた場合と比べて、1千万円の売り上げで30~40万円納税額が増えます。
 商売上で手元に残る現金が減ったうえに、納税額が増えるのですから、資金繰りが大変になるのは火を見るより明らかでしょう。
 納税できないので銀行から借りようとしても、その理由では貸してくれません。
 資金がショートして、廃業に追い込まれる、これが今度の消費税増税がもたらす問題です。
 阻止するのが一番ですが、仮にできなかったとき、商売や事業を守るには確実に転嫁していくことと、納税資金を確保することを肝に銘じてほしいと思います。

 事務負担でも面倒なことになります。
 消費税では簡易課税方式というのがあります。中小業者の事務負担軽減のために設けられた制度です。
 政府や財務省は廃止したくてしょうがない制度なのですが、これをなくすと中小業者には大きな負担となって反発を食らいますから、簡単に廃止はできないでしょう。

 この制度は5種類の業種区分で仕入税額を率で控除するというものです。業種区分で納付税額に違いが出ますから、どの業種に当てはまるのかというのが結構大事な問題になります。

 卸業はⅠ種とされ、税率が一番低くなります。卸業というのは、仕入れたものを加工しないで業者に売る業のこととされています。加工して卸すとⅢ種の製造業になり、納税額は一気に3倍になります。
 ところで、この加工の程度について国税庁は軽微な加工は卸でいいよと言って、ウナギの卸業者を例に取り上げています。

 どのように解説しているかというと、ウナギを仕入れてそのまま業者に卸すのはⅠ種の卸業、ウナギをさばいて業者に卸す場合もさばく程度のことは軽微な加工なのでⅠ種の卸業でいいよ、だけど、さばいたものに串を指して卸すのは軽微な加工と言えないから、Ⅲ種の製造業だと解説しています。さらに、加熱するものはすべて軽微な加工にはならないので、ウナギを蒸した場合はⅢ種としています。

 ウナギの卸業者が、大手スーパーから、生きたままを10匹、さばいて開いたものを10枚、さばいて串を刺したものを10枚、さばいて蒸したものを10枚納品してくれと注文を受けて納品したとします。
 もうお分かりになると思いますが、40をすべてⅠ種の卸の売り上げとして申告するのは間違いになります。生とさばいただけの20はⅠ種の売り上げ、串を刺したものと蒸した20はⅢ種の売り上げとして、消費税を計算しなければ調査で追徴を受けることになります。
 実にバカバカしくて思わず笑ってしまいますが、東京国税局の消費税課長がまじめに解説しているのです。(注1)

 まだあります。
 二つ以上の業種に該当する売上がある場合は、売上を区分しないと全部が一番低い率の業種と判定されます。
 したがって、このウナギ卸業者がⅠ種とⅢ種の売上を区分して帳面につけていないと、生きたままで卸した売上も含めて全部Ⅲ種と認定され、ドカンと追徴されるのです。

 いいですか、串を刺すか刺さないかで納税額が3倍違いますし、売上を区分計上しなければ、全部串を刺して売ったとみなされるのですよ。ひどい話でしょう。
 ドイツなんかでも同じ問題があって、納税額の開きを少なくするために60もの業種区分を設けているわけです。
 ウナギ生卸はⅠ種、さばきおろしは1.2種、串さし卸は1.3種、という具合にやると、これはもう際限がないわけです。つまり、とんでもない矛盾を抱えているのが消費税の簡易課税制度なのです。

 それに加えて、食料品などに軽減税率を入れたら、どうなるのかです。
 生のウナギは生鮮食料だからゼロ税率、蒸したものは蒲焼用で高級食材なので10%だ、さばいただけのものは庶民用なので3%にしようか、と、要は政治判断で決まります。
 すると、「減税日本」なんて地方政党がありますが、「かばやき日本」なる政党を立ち上げた人が、ウナギの蒲焼は日本の伝統文化だ、ハンバーガーは20%にしてウナギはすべてゼロ税率とせよ、と動くわけです。
 関西は蒸さないそうで、そうすると大阪で受け狙いだけの「なんとか維新の会」あたりが、蒸して蒲焼にする東京は邪道だ、大阪は0%で蒸しは10%だと言い張る、負けじと東京の暴走老人が蒲焼にお茶をかける「ひつまぶし」は邪道も邪道だから禁止しろ、禁止しないのなら10%だとまくし立てる、間に位置する名古屋のなんとか市長が、まあまあ、ここは関東と関西の間にある名古屋にちなんで、ウナギはナゴヤ、7.58%の軽減税率で行きましょうよ、ということで落ち着くなんてことになるわけです。
 そもそも8%も10%も何の根拠もありません。財界は19%まで引き上げろと言っています。
 カンオ勘定奉行ではありませんが、「安倍インフレカモン(come-on)の守」がインフレ誘導のために15%まで引き上げると言い出すかもしれないのです。

 ウケ狙いのふざけた話ではありませんよ。
 大手新聞各社は消費税を増税しろと論陣を張ってきました。消費税増税法が成立して、軽減税率の話が出ると、新聞には軽減税率を適用すべきだと政府に要求しているのです。
 消費税10%で新聞代が値上がりすると売れなくなるので、自分たちには軽減税率だというのですから、頭にきませんか。

 軽減税率を入れるということは、複数税率になるということです。これを簡易課税の人に適用するには、業種区分をして、さらに税率ごとの売り上げを区分して、という作業が欠かせません。ドイツの業種区分の話をしましたが、カナダでは食料品はゼロ税率なので簡易方式の場合は売上全体に占めるゼロ税率売上の割合を出し、その割合で段階税率を適用するという方法をとっています。いずれにしても単純ではなくなります。(注2)

 ゼロ税率を適用すると、その売上のために仕入れた課税仕入れ分、ウナギの場合ですと串とかガス代で支払った消費税分が還付されます。だから財務省は反対しているといいましたが、これもオイオイです。
 いまも輸出はゼロ税率ですから、国内で仕入れたものにかかっている消費税は還付されているのです。
 トヨタ自動車は毎年平均2,500億円強の消費税が還付されているのです。これは湖東税理士が試算して商工新聞でも発表していますよね。
 輸出企業にとってみれば消費税サマサマです。5%で2,500億円ですから、10%になればトヨタ1社で5,000億円還付されるのです。
 財界が消費税増税を叫ぶのは、見合いで法人税を下げさせるためだけではなく、自分の会社が直に潤うからなのです。
 汚いでしょう。財務省は、こちらはどうぞどうぞ、ですよ。

 いろいろ話しましたが、消費税の最大の欠陥は逆進の税金だということです。低所得者ほど所得に反比例して重税になる税金です。
 ない人からとる税金なのです。

 消費税は1%で2兆円の税収が上がります。5%になってからは景気に左右されず、毎年10兆円の税収で推移しています。法人税や所得税は景気に左右されて凸凹するので、財務省の本音は安定財源である消費税を引き上げて税収を確保したいということなのです。
 逆に言えば、国民が生活するために消費せざるを得ないものに課税しているから、景気に左右されようがない、つまり生活費課税だということの証拠です。
 消費税はどう見ても悪魔の税金なのです。

 もともと欠陥の税制を取り繕うとすればするほど、陳腐で複雑な税制にならざるを得ません。あれこれお話ししましたが、そのことを受け止めて、ここに参加の皆さんが、消費税に心から怒りを持っていただきたいと思います。

 来年の4月までに参議院選挙があります。経済状況による凍結条項もいきています。
 1億人が消費税増税に怒りを示せば、増税3兄弟も財界も突っ走ることはできません。
 経済条項というのは経済成長率が低いようなら引き上げを凍結するというものですから、「安倍インフレカモンの守」が必死にインフレを起こして見せかけの成長率アップを図ろうというのです。
 ということは逆に、消費税増税を阻止するために、国民的買い控え運動を起こし、国内消費を冷え込ませ、成長率を低下させる手もあり、ということです。
 これ以上景気が冷え込むのも困りますので、難しいところですが、今年いっぱい、無駄遣いをせず、旅行などはもってのほか、消費税に怒りを燃やし家でじっとしていれば、経済条項で消費税増税を阻止する基盤が醸成されていきます。

 それに加えて、投票一揆で増税3兄弟をへこませる、怒りを広げる闘いを粘り強く展開する、あきらめてはだめです。
 まだまだ闘う時間はあります。いろいろ知恵を出して、消費税増税阻止に向けて、今日の行動を含めて断固たたかっていこうではありませんか。
 「やるのは、今でしょ!」、がんばりましょう。

注1  東京国税局消費税課長編「消費税簡易課税のすべて」・大蔵財務協会

注2  カナダの簡易課税制度
(カナダの標準税率は、7%から2006年に6%、2008年に5%に引き下げられている。ここで取り上げたのは、7%時代の簡易課税の方式である。)
  業者別税率を売上高に乗じて納税額を算出する。
  製造業の場合、売上高20万カナダドル(1カナダドル=92円…1,840万円)以下
  納付税額=売上高×5%
   (当時のカナダの標準税率は7%なので、単純に2%低い税率で算出できる。日本のみなし仕入率に換算すると、2%÷7%=28.5%となる)
  基礎食料品は0%である。
  コンビニなど、0税率と7%品が混在している場合、売上高50万カナダドル(4,600万円)以下の場合、次の納付税率で税額を算出できる。
売上高に占めるゼロ税率の売上高 納付税率
  25%~50%   1.75%
  50%以上     1.00%

  ちなみに日本の簡易課税における納付税率は、
  Ⅰ種0.5%、Ⅱ種1.0%、Ⅲ種1.5%、Ⅳ種2.0%、Ⅴ種2.5%