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  ぜひ手元に置きたい 「差押え」 
 

 東京税財政研究センターが出版した「差押え」(東銀座出版社 定価2,000円)。
 国税の納税と滞納整理に絡む問題に対して、実践的に対処できるきめ細かな記述が話題を呼んでいる。多くの専門家、とりわけ税理士の皆さんにぜひ購入をお勧めしたい。
 というのも、一例として、税理士が調査をまとめて修正申告書の提出する場合、納税の猶予に関する知識をもたずに対処してしまうと、専門家責任に問われて損害賠償に応じなければならないことになるからだ。

 納税者の皆さんも、様々な事情で納税が難しいとき、納税の猶予という制度があるということを思い出し、税理士なり、税務署と相談していただきたい。

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   3種類の納税猶予制度

 「納税の猶予」は国税通則法第46条で規定されている。
 条文では、2つの取扱いを規定している。
 ひとつは「相当な損失に係る納税の猶予」であり、もうひとつは、「一般的な納税の猶予」である。
 「相当な損失に係る納税の猶予」は災害により相当な被害を受けた場合、納税者が申請し、申請を受けた税務署長が災害状況を勘案して期間を区切って納税を猶予するもので、分納で納税する制度ではない。災害にあったとき、思い出すようにしておきたい。
 「一般的な納税の猶予」、これが大事な制度である。この制度は分納を保障するとともに、延滞税を免除するものである。

 「一般的な納税の猶予」は「通常の納税猶予」(通46②)と「賦課遅延に係る納税の猶予」(通46③)の2種類がある。
 2種類あるが、いずれも納税者が「納税の猶予申請書」を提出しなければ適用がない。
 忘れてならないのが、「賦課遅延に係る納税の猶予」は、税金の納期限内に申請書が出されていることが絶対要件になっていることだ。

   税務調査で遡及の追徴税額がある場合
   修正申告・更正処分でも、制度は活用できる

 「通常の納税猶予」(通46②)のほうは、「差押え」を買って勉強してもらうこととして、ここでは「賦課遅延に係る納税の猶予」を解説するので、ぜひ活用していただきたい。

 課税遅延とは、税務調査で是正事項が3年前、5年前、7年前までさかのぼる場合、確定手続きが法定納期限より1年以上遅延した場合で、一括納付できないと認められるときに、納税者からの「納税の猶予申請書」に基づき、納付困難な額を限度として、1年の範囲(=猶予期間、なお、最長2年までの延長制度あり)で分納を認めるという制度である。
 この場合、猶予期間において延滞税の額の2分の1が免除される。

 所得税の調査が24年10月にあり、その11月25日に23、22、21、20、19年分の修正申告書を提出することになったとき、直近の23年分は対象外だが、19から22年分の今回の確定手続きはそれぞれの法定納期限から1年を経過した以後に行われているから、それらの追徴税額が対象となる。
 そこで、納税者が即時に納税する資金がないとなれば、修正申告書の提出が11月25日なので、同日かその日以前に「納税の猶予申請書」を提出ことで納税の猶予が受けられ、延滞税の一部免除も行われる。
 では、修正申告書の提出ではなく5年分更正された場合はどうか。
 猶予の要件は、申請書がその税金の納期限までに提出されていることであるから、「更正通知書」が納税者の手元に届くと、そこに通知書を発した日が記載されている。更正の場合の納期限は通知書を発した日の翌日から1カ月を経過する日が納期限であるから、その前までに申請書を提出すれば適用となる。

 課税関係で調査に来る調査官は、この制度をほとんど知らない。だから調査結果を説明することになるが、納税の猶予制度を説明する調査官は皆無である。調査官も遡及する場合はこの制度を説明すべきであろう。