幹部も担当者も??? 平気で「知らない」とは
所得税の調査を受けたある人が、SOSを出して当事務所に助けを求めてきた。 従業員一人を使い、自分も現場を走り回っているため、経理が遅れ遅れになり、バタバタと集計したりするため現金の売上げ計上を失念していたという。 調査官は現金売上先に対して反面調査を行い、年間50~60万円の過少計上となっていることを把握した。 |
そこで納税者に対していったことが、「売上除外だから7年間修正してもらう。経費の水増し、つまり架空計上もあるのでそこも不正だ。修正申告書を作成したから判を押してほしい。」というもの。
家のローンと切り詰めた生活費で、貯金は残っていない。所謂タマリがないことは調査官も確認済みだという。脱税して別預金に貯めこんでいたということではない。
納税額を示されて、とても納められないと判を押さずに駆け込んできた次第である。
ロッキード事件にまつわる巨額脱税事件が発端となり、昭和56年に国税通則法が改正され、「偽りその他不正」による脱税の場合は法定納期限から7年を経過するまで更正又は決定することができるとされた。
その時の国会審議において、附帯決議が採択され、決議採択に対して当時の渡辺大蔵大臣が国会で発言もしている。
<衆議院・参議院における付帯決議全文と大臣答弁> 脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議 (衆議院大蔵委員会 昭和56年4月24日) 政府は、左記の事項について留意すべきである。 一、今回の改正により延長された更正、決定等の制限期間における調査に当たっては、高額、かつ、悪質な脱税者に重点をおき、中小企業者を苦しめることのないよう特段の配慮をすること。 一、脱税の調査に当たっては、理解の差、過誤、故意、悪質脱税などの相違による性格の相違を配慮し対処すること。 一、所得実現の時期から相当期間遅延して納付すべきこととなった場合に、納付困難となる納税者を救済するため、納税緩和制度を積極的に適用するよう努めること。 一、今回の改正に伴い保存期間が延長される青色申告者の帳簿書類の範囲については、少なくとも中小企業者に過重な負担とならないよう、特段の配慮をすること。 一、税務調査に当たって、使途不明金の性格については社会情勢、社会道義、社会常識、社会的責任を十分に参酌して適正な課税を行うこと。 渡辺国務大臣 「ただいま御決議のありました事項につきましては、政府といたしましても御趣旨に沿って、誠意を持って対処いたしたいと存じます。」(決議採択を受けて発言) 脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議 (参議院大蔵委員会 昭和56年5月15日) 政府は本法施行に当たり、次の事項について配慮すべきである。 一、脱税の調査に当たっては、法令の理解度、脱税の意思の程度等の相違に配慮し、納税者の立場をも十分尊重して対処すること。 一、今回の改正により延長された更正・決定等の制限期間に係る調査に当たっては、原則として高額、悪質な脱税者に限り、いたずらに調査対象、範囲を拡大するなど中小企業者等に無用の混乱を生ずることのないよう特段の配慮をすること。 一、所得発生の時期から相当期間経過して更正・決定等が行われる場合、直ちに納税することが困難となる納税者を救済するため、納税緩和制度の弾力的運用に努めること。 一、保存期間が延長される青色申告者の帳簿書類の範囲については、中小企業者等に加重な負担とならないよう、最小限度のものとすること。 右、決議する。 渡辺国務大臣 「ただいま御決議いただきました事項につきましては、政府といたしましても、御趣旨に沿って誠意をもって対処したいと存じます。」(決議採択を受けて発言) |
最近の税務調査で頻繁に起きているのが、ちょっとした集計違算でも「売上除外だ」「経費の架空計上だ」として7年遡及を迫る税務署の振る舞いである。
この事案、高額悪質な脱税とは思えない。
もし判を押してしまったら滞納になることは必至であり、この個人事業者の事業展開は即座に困難に直面するであろう。
これらのことは調査官も認識しているのに、それでも7年遡及を迫る。話をすると、調査官は附帯決議をまったく知らなかった。上司の統括官も知らない。政府として、大蔵大臣が答弁していることも知らない。
要は、附帯決議などまったくないも等しい中で行政が行われているのだ。
上記の附帯決議を読めば、今回の事案で7年遡及を迫るのは、附帯決議に反するものであろう。やってはならないことだ。
請求書で分かるのに、了解もなく反面調査
これは税務運営方針を逸脱
現金売上が過少計上になっていたのは、納税者が保管していた請求書から分かったものだ。他の売上は銀行振り込みなので問題はない。そうすると反面調査をしなくても、請求書を拾い出していけば過少計上は把握できる。
ところが納税者に一言もなくこの調査官は反面調査を行った。反面調査で問題となるのは、取引停止になったり、以後の取引に大きく影響することである。
法律上はできるとしても、納税者の経済活動に十分に配慮して実施すべきものである。
このことは「税務運営方針」でも明記されている。ところが、調査官は目にしたこともないという。
国税庁は「税務運営方針」は生きている文書であると組合交渉で言っており、廃棄されていない。関連個所をそのままここに提示する(下線は掲示者による)。
税務運営方針(昭和51年4月策定) ハ 調査方法等の改善 税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。 なお、納税者との接触に当っては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担を掛けないようにするため、納税者に送付する文書の形式、文章等をできるだけ平易、親切なものとする。 また、納税者に対する来署依頼は、納税者に経済的、心理的な負担を掛けることになるので、みだりに来署を依頼しないよう留意する。 |
国税通則法が改正され、税務調査手続が法定化された。だからといって、それ以前の附帯決議や税務運営方針が置き換わったわけではない。
政府としての税務署である。自らの発言や公表文書に責任をもたなければならない。 また、職員教育を手抜きしてはいけない。