国税庁は相続税等に関連して財産評価の方法・取扱いを通達・情報等で提示している。 評価は100人がやれば100通りといわれるが、それでは公平性が確保できない。がんじがらめは行き過ぎだが、国税庁が一定の基準を示すことは、納税に安定性と公平性をもたらす。 東日本大震災による津波や放射能の被害を受けた土地をどう評価したらよいのか、国税庁が見解を示した。被害の甚大さと復興の遅れを反映したもので、妥当な見解といえるであろう。 |
ところで、土地汚染地の評価について、平成16年7月5日付で国税庁課税部 資産評価企画官 資産課税課が公表した「情報」がある。この情報は国税庁のホームページに3年間ほど掲示されていたが、現在は削除されている。理由は分からない。
土地の汚染問題は案外多くの場で起きている。
当事務所の相続事案でもこの問題を抱えた土地があった。そこで、この情報が生きているのか税務署の資産課税課に確認したところ、情報はそのまま生きているとの回答である。
国税庁のホームページに再掲示すべきであるが、そうした動きはないようなので、関係者の利便のため、全文を掲載する。活用していただきたい。
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土地汚染地の評価等の考え方について(情報)
標題の件については、別添のとおり取りまとめたので、執務の参考として送付する。
資産評価企画官情報 第3号 資産課税課情報第13号 平成16年7月5日
国税庁課税部 資産評価企画官 資産課税課
資産評価企画官情報 第3号 資産課税課情報第13号 平成16年7月5日
国税庁課税部 資産評価企画官 資産課税課
1 土壌汚染地の評価
土壌汚染対策法が平成15年2月15日から施行され、今後、土壌汚染地であることが判明し、相続税等の課税上、問題となる事例が生ずることが考えられることから、土壌汚染地の評価方法の基本的な考え方を取りまとめることとした。 |
1 土壌汚染対策法の施行及びその概要
企業の工場跡地の再開発等に伴い、重金属、揮発性有機化合物等(特定有害物質)による土壌汚染が判明する場合が生じている。この土壌汚染を放置すれば、汚染された土壌を直接摂取したり、汚染された土壌から有害物質が地下水に溶け出し、その地下水を飲用することなどにより、人の健康に影響を及ぼすことが懸念される。
このため、土壌汚染による人の健康への対策の確立など、土壌汚染対策に関する法制度の制定についての社会的要請が強まり、土壌汚染対策法(平成14年法律第53号、平成15年2月15日施行)が制定された。
土壌汚染対策法の下では、次に掲げることなどの措置がとられることになる。
① 都道府県知事は、土壌の汚染状態が基準に適合しない土地について、その区域を指定区域として指定・公示するとともに、指定区域の台帳を調製し、閲覧に供する(土壌汚染対策法5、6)。
② 都道府県知事は、指定区域内の土地のうち、土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがあると認めるときは、土地の所有者等に対し、有害物質の除去、拡散の防止その他の汚染の除去等の措置を命ずる(土壌汚染対策法7 、参考1を参照)。
2 土壌汚染地の評価方法
(1) 土壌汚染地の評価方法(基本的な考え方)
平成14年7月3日付の「不動産鑑定評価基準」の改正(平成15年1月1日施行)により、不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合は、土壌汚染の状況を考慮すべきこととされているが、現在のところ、標準となる鑑定評価の方法は公表されていない。
そこで、米国における土壌汚染地の鑑定評価を参考にすると、①原価方式、②比較方式及び③収益還元方式の3つの評価方式がある。これらのうち、②比較方式は、多数の売買実例が収集できるときには、評価上の基本的な方法であると考えられるが、土壌汚染地の売買実例の収集は困難であり、③収益還元方式についても、汚染等による影響を総合的に検討した上で純収益及び還元利回りを決定することは困難であるので、②及び③のいずれの方式についても現段階において標準的な評価方法とすることは難しいと考えられる。
一方、①原価方式は「使用収益制限による減価」及び「心理的要因による減価」をどのようにみるかという問題はあるものの、「汚染がないものとした場合の評価額」及び「浄化・改善費用に相当する金額」が把握できることからすると、土壌汚染地の基本的な評価方法とすることが可能な方法であると考えられる。
なお、相続税等の財産評価において、土壌汚染地として評価する土地は、「課税時期において、評価対象地の土壌汚染の状況が判明している土地」であり、土壌汚染の可能性があるなどの潜在的な段階では土壌汚染地として評価することはできない。
① 原価方式
土壌汚 染地の 評価額 | = | 汚染がないも のとした場合 の評価額 | - | 浄化・改善 費用に相当 する金額 | - | 使用収益制限 による減価に 相当する金額 | - | 心理的要因に よる減価に相 当する金額 |
(注)1 「浄化・改善費用」とは、土壌汚染対策として、参考1に掲げる土壌汚染の除去、遮水工封じ込め等の措置を実施するための費用をいう。汚染がないものとした場合の評価額が地価公示価格レベルの80%相当額(相続税評価額)となることから、控除すべき浄化・改善費用についても見積額の80%相当額を浄化・改善費用とするのが相当である。
2 「使用収益制限による減価」とは、上記1の措置のうち土壌汚染の除去以外の措置を実施した場合に、その措置の機能を維持するための利用制限に伴い生ずる減価をいう。
3 「心理的要因による減価(「スティグマ」ともいう。)」とは、土壌汚染の存在(あるいは過去に存在した)に起因する心理的な嫌悪感から生ずる減価要因をいう。
4 汚染の浄化の措置等については、評価時期において最も合理的と認められる措置によることとする。なお、各控除額の合計額が汚染がないものとした場合の評価額を超えるときには、その価額(汚染がないものとした場合の評価額)を限度とするのが相当である。
② 比較方式
対象地の土壌汚染と類似の汚染影響がある土地の売買実例を収集し、これに比較準拠する方式
③ 収益還元方式
土壌汚染地の評価額= 純収益÷ 還元利回り
(注) 土壌汚染地については、純収益の計算上、通常の賃料よりも低い賃料を想定せざるを得ず、また、汚染により一般の入居率が維持できないこと、環境モニタリング費用等の別途の経費が生ずる場合があることを考慮する。さらに、還元利回りの査定に当たり、土壌汚染による影響リスクをプレミアムとして利回りに反映させる必要があるとされている。
(2) 浄化・改善費用の取扱い
イ 土壌汚染地を評価する場合、どのような措置(除去、遮断封じ込め、遮水工封じ込めなど)を採るかによって負担する浄化・改善費用が大きく異なり、また、選択した措置に伴い生ずる使用収益制限の内容も変わることから、選択した措置により評価額に大きな影響を及ぼすことになる。
ロ 汚染の除去等の措置は、本来ならば、指定区域から解除される有害物質の除去措置を選択することが望ましいと考えられる。しかし、土壌汚染対策法に基づく汚染の除去等の措置については、
① 基準を超える汚染が確認された場合に、直ちにその土地所有者等に除去命令が出されるものではなく、都道府県知事が汚染状況や措置の技術的な実施可能性等を踏まえ、有害物質が他へ流出することがないよう適切に管理することが可能な措置を命じることになっていること(参考1)
② 除去措置を行わないと土壌汚染地が全く利用できないともいえないことから、合理的な経済人であれば、封じ込め等の措置費用とその措置後の使用収益制限等に伴う土地の減価の合計額が除去措置費用よりも安価である場合、封じ込め等の措置を選択するのが一般的であると考えられる。例えば、汚染の封じ込め措置を行う土地については、一定の使用収益制限があり、掘削工事を伴うマンション等の堅固な建物の建築はできないものの、駐車場や資材置き場等として使用することができる場合が多いと考えられる。
ハ しかし、封じ込め等の措置費用とその措置後の使用収益制限等に伴う土地の減価の合計額が除去措置費用を上回るような場合には、その選択する措置は、除去措置となるものと考えられる。
以上のことからすると、土壌汚染地について行われる措置は、法令に基づく措置命令、浄化・改善費用とその措置により生ずる使用収益制限に伴う土地の減価とのバランスを考慮し、その上でその土地について最有効使用ができる最も合理的な措置を専門家の意見をも踏まえて決めることになると考えられる。
ニ なお、浄化・改善方法については、現段階では、様々な手法、技術等が研究されている状態であり、標準的な手法、技術等が確立されていない。したがって、標準的な浄化・改善方法に基づき、これに要する費用相当額を定めることができないので、当面は、土壌汚染対策法第13条に規定している指定調査機関の見積もった費用により計算せざるを得ない(複数の調査機関の見積もりをとることが望ましい。)と考えられる。
(注)1 環境大臣が指定する指定調査機関(平成16年5月17日現在、1,485機関を指定)の最新情報は、環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/water/dojo/kikan/index.html)にて公表されている。
2 上記(1)の①の算式を適用する場合において、除去措置済みであれば、使用収益制限がなくなるため、使用収益制限による減額はなく、心理的要因による減価のみとなる。
(3) 使用収益制限による減価の取扱い
土壌汚染地に対する措置が、例えば、遮水工封じ込め措置(汚染土壌をその土地から掘削し、地下水の浸出を防止するための構造物を設置し、その構造物の内部に掘削した汚染土壌を埋め戻す措置)である場合には、その措置の効果を維持するために遮水機能等を損ねない範囲の土地利用しかできないことになる。
このため、封じ込め等の措置後の土地には、一般に使用収益制限が生ずることになると考えられるが、この使用収益制限については、取引の実例がほとんどない中で一定の減価割合(減価に相当する金額)を定めることができないことから、当面は、個別に検討せざるを得ないと考えられる。
(4) 心理的要因による減価の取扱い
心理的要因による減価(スティグマ)については、これまで、その減価の割合等が公表されたことはなく、一般に数値化することも困難であり、取引の実例もほとんどないことから、それを基に標準化することも困難である。
また、措置の内容(除去措置済み、又は封じ込め等の措置済み)に加えて措置前か措置後かによっても減価の程度が異なり、さらに、措置後の期間の経過によっても減価の程度が逓減していくとも考えられていることから、一律に減価率を定めることも相当ではない。したがって、当面は、個別に検討せざるを得ないと考えられる。
3 その他
(1) 浄化・改善費用の額が確定している場合の取扱い
課税時期において、評価対象地について都道府県知事から汚染の除去等の命令が出され、それに要する費用の額が確定している場合や浄化・改善の措置中の土地で既に浄化・改善費用の額が確定している場合には、その浄化・改善費用の額(課税時期において未払いになっている金額に限る。)は、その土地の評価額から控除するのではなく、相続税法第14条に規定する「確実な債務」として、課税価格から控除すべき債務に計上し、他方、評価対象地は浄化・改善措置を了したものとして評価するのが相当である。
これは、課税時期において既に浄化・改善措置を実施することが確実であることから、その確実な債務に該当する金額を相続税における債務控除額とし、また、土地の価額は、課税時期において土壌汚染地ではあるものの、いずれ浄化・改善措置後の土地となることが確実と見込まれることから、その復帰価値により評価するのが相当であるとの考え方によるものである。
なお、都道府県知事から汚染の除去等の命令が出された場合は、指定支援法人(平成16年2月末時点では、財団法人日本環境協会が指定支援法人に指定されている。)から、汚染の除去等の措置を講ずる者に対して助成金が交付される場合がある(土壌汚染対策法21一、助成金を受けようとする基準については、参考2を参照)。この場合には、課税価格から控除する確実な債務の金額は、債務控除の対象となる浄化・改善費用の金額から助成金の額を控除した金額となるのが相当と考えられる。
(2) 措置費用を汚染原因者に求償できる場合の取扱い
土地所有者以外の者が汚染原因者である場合において、土地所有者がその汚染の除去等の措置を行ったときには、その汚染の除去等の措置に要した費用を汚染原因者に請求することができることとされている(土壌汚染対策法8 )。
このため、被相続人が土壌汚染地の浄化・改善措置を行い、汚染原因者に除去費用等の立替金相当額を請求している場合には、その土地は浄化・改善措置後の土地として評価し、他方、その求償権は相続財産として計上することに留意することが必要である。
なお、求償権の評価に当たっては、除去費用等の立替金相当額を回収できない場合も想定され、その回収可能性を適正に見積もる必要があることから、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)204(貸付金債権の評価)、205(貸付金債権等の元本価額の範囲)に準じて評価するのが相当と考えられる。
(注) 別途、土地所有者が汚染原因者に対して損害賠償請求を行っている場合には、そ
の損害賠償請求権も相続財産に該当することに留意する(民709、評基通210)。
(3) 土壌汚染地の評価方法の準用
土壌汚染対策法のほかに、条例等により土壌汚染の調査・対策を義務付けている地方公共団体も存在する。
例えば、東京都においては、平成12年に都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号、平成13年4月1日施行)を制定することにより、平成13年10月から有害物質取扱事業者や土地開発事業者に対して、次のような場合に土壌汚染の調査を行うこととし、基準値を超える土壌汚染が判明した土地には、汚染拡散防止措置
(除去もしくは封じ込め)を行うことを義務付けている。
① 工場若しくは指定作業場を廃止し、又は当該工場若しくは指定作業場の全部若しくは主要な部分を除却しようとする場合(条例116)
② 3,000㎡以上の土地の改変(土地の切盛り、掘削、その他土地の造成又は建築物又はその他の工作物の建設その他の行為に伴なう土地の形質の変更)を行う場合(条例117)
また、ダイオキシン類対策特別措置法により、ダイオキシンが一定基準を超えて存在することが判明した場合にも、除去を義務付けている。
このような条例等により土壌汚染の調査・対策が義務付けられている場合において、土壌汚染が判明した土地についても、これまで述べた土壌汚染地の評価方法に準じて評価して差し支えないと考えられる。
(注) 土壌汚染対策法の施行後、土壌汚染対策法と条例等がともに適用される場合
のほか、条例等のみの適用となる場合も考えられる。
(参考1)環境省で示している汚染の除去等の措置 (略)
(参考2)指定支援法人より助成金が交付される基準
平成16年1月31日付の環境省告示第4号による助成金を受けようとする基準は次のいずれかに該当するものとしている。
一 個人(事業を行う個人を除く。)
次のいずれかに該当する者
イ 土壌汚染対策法(平成14年法律第53号。以下「法」という。)第21条第1号の助成金(以下「助成金」という。)の交付を受けようとする年の前年の所得の額(退職所得の金額、一時所得の金額等継続的でない所得の金額がある場合等その額をその者の継続的所得金額とすることが著しく不適当である場合においては、直前3年の所得の額の平均額。以下同じ。)が2千万円未満である者
ロ 助成金の交付を受けようとする年の前年の所得の額が、その者が法第7条第1項の規定により命ぜられた汚染の除去等の措置に要する費用に3分の2を乗じた額に2千万円を加えた額未満である者
ハ 助成金の交付を受けようとする年の前年の所得の額が、その者が法第7条第1項の規定により命ぜられた汚染の除去等の措置に要する費用に2を乗じた額未満である者
二 事業を行う個人及び法人
助成金の交付を受けようとする事業年度の前事業年度の自己資本、正味財産又は元入金の額が3億円未満である者
(参考3) 土壌汚染地の価値の時系列イメージ
財団法人日本不動産研究所のホームページ
(http://www.reinet.or.jp/jreidata/osenpj/osenqa.htm)では、心理的要因による減価(スティグマ)について、「基本的に、浄化の前後でStigmaの大きさは、変化します。「浄化後」は、単純に言えば、過去に対象地が有害物質に汚染されていたという事実を嫌悪することに基づく減価であり、浄化直後のStigmaを最大とし、一般に時の経過とともにその減価は逓減していくものと考えるのが適当です。それに対して、「浄化前」は、現に有害物質が実在するので、健康に害が及ぶリスク等が少なくとも浄化後に比べて存在するため、一般にStigmaによる減価は、浄化後に比べて大であると考えるのが理論的です。」と説明している。