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  意外と知らない宿泊税

 東京都内のホテルや旅館に宿泊すると、「宿泊税 100円」なるものが加算された宿泊代を支払うことがあります。
 地方税の法定外目的税として、東京都が平成14年10月1日から実施しているのがこの宿泊税です。
 課税標準は宿泊数。納税義務者は宿泊者。徴収方法は特別徴収でホテル・旅館の事業者が徴収義務者となり、ひと月分をまとめて翌月末までに申告して納付。
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 税率は一人1泊について素泊まり料金(消費税に相当する額は含めない)1万円未満0円、1万円以上1万5千円未満100円、1万5千円以上200円。
 総務省のまとめによれば、19年度決算額で東京都は宿泊税で14億円の税収を得ています。
 目的税ですから使い道が限定されています。東京都は、①東京の魅力を世界に発信する取り組み、②観光資源の開発への取り組み、③受入れ体制の整備を目的としています。東京都はオリンピック招致に多額の税金を投入しましたが、この税収も使われたのでしょうね。

  消費税の処理は?
    疑問が生じる宿泊税

 会社(事業者)の業務で都内のホテルに宿泊し宿泊税を支払った場合、消費税の課否判定と仕訳はどうなるのでしょうか。
 東京都の説明によれば、領収書等には宿泊税の名称と金額を表示するよう要請しているが強制ではないといいます。したがって、宿泊税の名称と金額が明確に表示されていない場合は、宿泊税分も含めて消費税の課税対象になるとしています。
  この扱いは入湯税と同じですが、消費税基本通達10-1-11は軽油引取税、ゴルフ場利用税、入湯税の3税が限定列挙されており、宿泊税には触れていませんから、区分されていなくとも税金として不課税でいいのではないかとの疑問が生じます。
 ともあれ入湯税と同じように、税金に税金を掛けられて宿泊者は宿泊代を支払うことがあるということです。
 宿泊税100円で5円の消費税、宿泊税200円で10円の消費税を利用者は余分に支払うわけです。ホテル業者は区分表示の有り無しに関係なく、宿泊税を徴収して都に納税しますから、間違いなく税金として利用者は徴収されています。
 少額だからと見過ごすわけには行きません。宿泊税の導入に荒さがあり、一方で消費税の根本的不備を示す例といえるでしょう。
 実務では次のようになります。
<宿泊税が区分表示されている場合>
  ■ホテル業者
    素泊まり宿泊代 12,000 (課税売上)
          消費税   600 (仮受消費税)
          宿泊税   100 (不課税売上)
       合計     12,700円
  ●利用した会社の仕訳
        借方                    貸方
  旅費交通費 12,000(課税仕入)     現金  12,700
  仮払消費税    600(不課税)
     宿泊税   100(不課税)

<宿泊税が区分されていない場合>
  ■ホテル業者
    素泊まり宿泊代 12,100 (課税売上)
         消費税    605 (仮受消費税)
       合計     12,705円
  ●利用した会社の仕訳
       借方                      貸方
  旅費交通費 12,100(課税仕入)      現金  12,705
  仮払消費税    605(不課税)

 

  宿泊税が教えること
   個別消費税や消費税複数税率の可能性示す

 応能負担原則からいっても、逆進性からいっても消費税は廃止が筋で、一般消費税を廃止して個別消費税に戻すべきです。次善の策として、消費税に複数税率を導入し逆進性の緩和を図ることです。しかし、消費税の複数税率については、インボイス方式でないと無理であり、日本の帳簿方式では不可能とする反論があります。
 果たしてそうなのでしょうか。宿泊税の導入と定着はある示唆を与えてくれます。つまり、一般消費税を廃止して、個別消費税とすることに実務上の問題はないということ、帳簿方式でも複数税率に対応できるということ、です。
 宿泊税はいってみれば個別消費税です。しかも段階税率を採用していますが、業者は事務負担もいとわず申告納税しています。日本の事業者は源泉徴収制度においても実績があり、極めて優秀な租税機関の役割を果たしています。
 つまり、生存権的商品やサービスと奢侈品を区分けし、個々の商品とサービスに個別消費税を設定しても、またそれぞれの税率を設定しても、事業者は規定に従って消費税を徴収して申告納付することができることを宿泊税の運営が示しているのです。