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  ばれたか……

 大王製紙といえばティッシュの「エリエール」でおなじみの会社だ。
 そこの取締役で前会長の井川意高氏(47歳、創業者の3代目)が、連結子会社を含めたグループ企業から106億8千万円を借り入れていた。
 このことが表に出てしまった。そこで会社が特別調査委員会を設置し、調査結果を調査報告書として公表した。
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<調査報告書の概要>

 前会長の借り入れ総額106億8千万円(大半は取締役会の承認なし)。
 ほぼ全額がカジノ関連口座(アメリカ)に入金されていたことが判明。
 8億5千万円はカジノ運営会社の日本法人(Aとする)の口座に直接振り込まれていた。
 残る98億3千万円は前会長の個人口座に振り込まれた後、90億円以上がカジノ関連会社(アメリカ)の口座に移されていた。
 59億3千万円が返済未済残となっている。
 要は、47歳の3代目が会社から金を借りて全部賭博につぎ込み、60億円が未返済になっているということである。
 
 グループ会社を1社として、総勘定元帳を作ってみよう。

貸付金(前会長)
年月日
摘要
借方
貸方
残高
××
前会長(A口座振込口)
850,000,000
 
850,000,000
××
前会長個人口座振込
9,830,000,000
 
10,680,000,000
××
前会長より返済
 
4,750,000,000
5,930,000,000
 
 
 
 
 
 
賭博で負けた額
勝った額
前会長の借金

 全額がカジノ賭博で動いているというのだからわかりやすい。自分のお金も使ったと思うがそれはないものとして、会社の金でやった賭博収支を簡単にいうと106円かけて47円取り返したことになる。なかなかの腕ではないかと感心してしまう。
 バリバなどの仕込外国債などは、元本1億円が半値の5千万以下にまで値下がりして大きな評価損を出している会社や学校法人もある。「たいした違いはないじゃないか」と前会長の開き直る姿が見られるかもしれない。
 
 会社法など無関係か
 会社と取締役の関係は
 
 茶化すのはほどほどにするが、大王製紙のこの事態は、経営者(会社役員=取締役)によい勉強材料を提供するものといえないだろうか。
 平成18年5月、旧商法から会社関係規定を抜き出して整備再編した会社法が制定され、会社関連法規の近代化が図られた。
 会社法は株主利益を柱にすえ、多くを契約関係として捉え、会社自治を大幅に拡大するものとなった。それだけに、取締役の立ち回りは重要性を増すことになる。より頭の切り替えが必要となったわけだ。
 経営にあたる取締役は会社と委任契約の関係になる。委任契約の中身は、取締役は会社利益のために、忠実に職務を果たすことである。それができない場合は任務懈怠となり、株主に不利益を与え、契約違反となるので損害賠償の対象になる。
 会社と競合する行為や、会社から金を借りて自分のために利用するなどは、競業取引、利益相反取引となり、株主総会の承認を受けなければならない。
 株主総会の承認を受けていない競業取引で利益を得た取締役は、その利益を会社に賠償する責任がある。
 利益相反取引をした取締役は、それで損害が生じたときは任務懈怠が推認され、損害賠償の対象となる。この場合、利益相反取引をはかった取締役会の承認決議に賛成した取締役も任務懈怠を推認され損害賠償の対象となる。
 
 大王製紙は創業者親族の絶対不可侵性があったということだが、会社法はそんな情緒的状況こそ排除しなければ、株主利益が確保できないと構想した法律である。そこで、大会社には「内部統制システム」の整備も義務づけている。実は、統制システムが会社を守ることになるのだが、ワンマンオーナーは意に返さず、結局自分の首を絞めることになる場合が多い。
 チェック機能が働かない組織は、どこかでピンホールが生じ、破綻するということである。東電の原発事故は、東電という会社のみならず、国ぐるみで原発の絶対不可侵性をつくりあげ、チェック機能をことごとく潰した結果でもある。
 
 大会社に限らず、中小業者も統制システムを働かせることは大事だ。それが奥さんの場合もあるだろう。奥さんの貴重なひと言が会社を守る例もある。
 エリエールの購入者が不買運動に走れば、著しい損害を蒙るであろう。

 経営者が会社のために冒険することと(任務遂行)、身勝手に暴走すること(任務懈怠)は、似て非なるものである。他山の石としたいものだが、大王製紙はみるところ余りにも旧態依然の会社らしく、参考になりそうもないか。