一刀両断
岡山地方裁判所が禰屋町子さんを法人税脱税幇助とニセ税理士行為で有罪とした倉敷民商事件。 広島高裁に控訴した禰屋さんに対し、1月12日、広島高裁は次の判決を下した。 <主文> 原判決を破棄する。 本件を岡山地方裁判所に差し戻す。 この事件の正式名称は「平成29年(う)第24号 法人税法違反幇助、税理士法違反被告事件」である。 | 広島高等裁判所 「裁判所HP」より転載 |
事件名からわかるように、禰屋さんは二つの違反で起訴された。
岡山地裁では両方とも有罪とされたが、検察が証拠申請し裁判官も証拠として採用したのが査察官が作成した「調査書」と「査察官報告書」である。
証拠は査察官報告書等
裁判では証拠調べの一種として、裁判官はその判断を補助するために、第三者である専門家(=鑑定人)にその専門知識を利用した判断を書面で報告させることがある。
これが鑑定書面といわれるが、その必要性や選定は裁判官に任される。
岡山地裁では、事件の捜査にかかわった査察官を鑑定人として、そのものが作成した二つの報告書を鑑定書面として採用し、それを動かぬ証拠とした。
期ズレと思わせる証拠
そこで広島高裁は、法人税法違反幇助について検討した結果として次のような判断を示した。
まず鑑定人としての査察官について、第三者である専門家とはいえないとした。
脱税捜査の当事者であるから、素人が考えても当たり前すぎる判断といえる。
そのうえで、調査書や報告書をみても、単に期ズレ計上や原価認容が記述されているだけで、脱税幇助の証拠としてはなっていないとした。
このあたりの高裁の判断を読むと、脱税の実態が売上と原価の翌期計上でしかないのではないかと思わせる。
高裁はそのものズバリの言い方をしていないが、そもそも逋脱犯として成立するのかが怪しいといっているに等しい。
証拠能力ゼロ
結論として、証拠とした鑑定書面は証拠にならないから、訴訟手続そのものが不備だから税理士法違反を判断するまでもない。もう一度最初から審理をやり直せと差し戻したわけだ。
そのうえで岡山地裁に対して、証拠とするにはこうしなければダメよと裁判のやり方まで指示している。まるで小学生に教えているかのようだ。まさに異例である。
この事件には我々の仲間の税理士も支援に加わった。岡山地裁と検察がどのような対応をとるのか、注目したい。