さて、今月のトピック(話題)は、二人の役者について。
一人は小泉純一郎さん。
この人は「小泉劇場」の主宰者。
小泉さんは原発推進を政治家のトップとして進めてきたが、フィンランドの「オンカロ」を見学して考えが変わったという。
そして、「脱原発!安倍首相は脱原発を決断せよ、権力者が決断すればできる。」とぶち上げた。
小泉劇場で大立ち回りを演じている。
コラム子としては「ヨッ、大統領!待ってました」と声援を送りたい。
このコーナーでも、2011.6.1付、トピックス20で「オンカロ」のことを取り上げた。ぜひ目を通していただければと思う。
小泉さんが私たちのトピックス20を読んだかどうかは分からないが、いま演じていることは、私たちが警鐘したことを真正面から受け止めた形になっている。
従って、この点に限っては、私たちは小泉さんを支持し、安倍首相には小泉さんの檄に応えて脱原発に政策転換してほしいと訴えたい。国民の多数も脱原発を求めているのだ。
小泉さん、もう一立ち回りを
あなたが広げた「格差」是正で
「過ちを正すことに憚ることなかれ」を身をもって示した小泉さんだから、小泉劇場でもう一つ演じてもらいたいことがある。
それは、あなたが竹中平蔵氏とコンビで行った「構造改革」により生じた「格差拡大」について。
なぜ非正規増大?
あなたは、格差が生じても、経済成長すればその余滴が下層に滴り落ちて格差は解消されるはずだとしたが、事態はまったくそうなっていない。
企業の成長のために、労働政策を規制緩和し、非正規労働者を大量に生み出す土台を築いた。日本で非正規労働者が増えた最大の理由は、企業にとって安上がりだからである。
賃金は抑えられるし、社会保険の企業負担は小さくなるし、解雇も簡単で支払いベースが簡単に調整できるのだから、企業が非正規労働者を使わない手はない。ものすごいメリットがあるからだ。
企業にメリットあるうちは………
正規労働者が500万人減り、非正規労働者が700万人増えた。格差が拡大し、日本経済に消費不況を巻き起こしている。
安倍首相も企業が成長する政策を第一義にしているが、賃上げをしなければ成長はおぼつかないことを認めざるを得ず、それがために賃上げを大企業に要請している。しかし、大企業の反応は冷淡である。各企業にとって、メリットがないからだ。
そこで企業に対するメリットとして安倍首相が進めようというのが、所得拡大促進税制と雇用促進税制による税額控除である。しかし、給与の増加額の10%を国が持つといっても、大したメリットではない。だから、賃上げは遅々として進まない。
フランスでは日本とまったく違う雇用政策が採用されている。派遣を受ける企業に対して、①派遣労働者・非正規社員の賃金は、最低限でも正社員の賃金と同額でなければならない(法律で規定)、②離職時には、雇用契約不安定身分補償手当と有給休暇分補償手当の支払いが義務付けられている。
②の二つの手当は、企業が派遣労働者へ支払った賃金支給総額の10%以上を支払わなければならないと規定されている。二つの手当により、支払総額の20%以上を離職時に支払うのである。
つまり、派遣労働者1人を2か月間受け入れた企業は、正社員の月給が50万円なら同額の50万円を2か月間支払い、離職時には20万円の補償手当を支払い、総額では120万円を支払わなければならない。
日本なら、正社員の6割程度であるから月給30万円、離職時の支払いはないから2か月間で総額60万円を支払えばよいということになる。
日本はフランスの半額で労働者を使えるのだから、企業が正社員を減らして派遣労働者・非正規社員に切り替える動きは止まらない。低賃金と格差拡大に歯止めはかからない。
大多数の国民の所得が低まっていくのだから、経済が成長するわけがない。安倍さんの今の政策では、日本全体の成長は望めない。
フランスでは、正社員を非正規雇用に置き換えても、企業側にメリットがないばかりか、かえって高くつくから置き換えない。
さあ、小泉さんの出番
フィンランド「オンカロ」の視察で考えを改めたように、小泉さんにはフランスの視察で考えを改め、大立ち回りを演じてほしいのだ。
「私の構造改革路線は間違っていた。雇用政策をフランス型にしなければダメだ。権力者である安倍首相が決断して法律を作ればすぐでき、格差は解消に向かい、経済は成長していく。」とぶち上げてほしい。
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もう一人の役者は猪瀬直樹さん。
この「借用証」が目に入らぬか
猪瀬黄門さまは庶民の味方?
猪瀬直樹という役者が都庁を舞台に水戸黄門をやるというのでテレビを見た。
猪瀬さんが見得を切る。
「やあやあ、この借用証が目に入らぬか。ものども頭が高い。吾輩は猪瀬黄門なるぞ。」と。
そこで、悪人たちは「へ、ヘイ」とひれ伏し、一件落着。
こんな台本だったのかも知れない……が
なにがって? 要は、リンカーンにならって、「個人の個人による個人のための借入」なので犯罪や事件性は一切ないということを主張したかったわけだ。
画面でアップされた「借用証」を見て笑ってしまった。
ちょっと検討するために、レプリカをつくったので見てほしい。
(クリックで拡大、借用証を一般的な「借用書」としている)
借用書は借主が1通だけ作って貸主に差し入れる場合が多い。猪瀬さんが持っているのだから、借入を返済したので貸主が借用書を返還したことになる。
猪瀬さんは現金を持ち込んで返したとしている。普通ならその時その場で借用書は返されるだろう。まあ、普通の貸し借りで返済が終わったのなら、証文は破り捨てるか、証文に「××月××日、確かに全額返済を受けました。 貸主名 印」 と余白に書き記して返済の証とするだろう。
ところが、そんな記述は一切なしの証文を後日郵送で返してきたと言っていた。ありえないだろうとか、折り目がないとか、貸主の指紋を調べろとか喧しいが、まあ、いいとしよう。
借用書をみると、印紙が貼付されていない。印紙が貼付されていなくても、借用書自体の効力は変わらない。貼られていなくても、とりあえずはいいとしよう。
返済期日や利息の約定がない。利息はいらない、返済は出世払いでいいので返済期日は決めないよ、という内容である。
返済期日を取り交わさない場合は、貸主が返せと言えばすぐ返さなければならない。利息を取り決めない場合は法定利息の5%となるが、返済期日も利息も、まあ、いいとしよう。
1通作成の借用書では普通、貸主の署名押印はない。借主は契約を証するために署名押印して貸主に差し入れる。見たところ、借主の猪瀬さんの署名はあるが押印がない。まあ、これもいいとしよう。
貸主は徳田●の個人名で、医療法人ではない。
もし医療法人が貸付行為を行ったとしたら、「目的」に合致しない貸付金は、理事長個人への利益供与とみなされる。そうすると、医療法第54条「剰余金の配当禁止」に該当し、罰則が適用される。
個人名になっているので医療法人からお金は出ていないとして、とりあえずはよしとしよう。
さて、この借用書だが、税務署の立場で見たらおいしそうな話が転がっている。
まず、印紙税の脱税、貸主の資金源の問題、借主の資金運用の問題である。
契約の真正さの問題となるが、(返してもらう意思がなかったとか、贈与で合意していたとかの)事実認定によっては、貸付額全額が貸した時の贈与となる。
猪瀬知事はそれを返したとしているので、贈与で受け取ったものを返す行為は、それも贈与となる。
要は、お金の動きが往復で贈与の問題となる。
仮に本体が贈与でないとしても、法定利息の5%分を貸主が収受しないとすれば、その分は貸主から借主への経済的利益の供与として贈与となる。
さてもさても、猪瀬黄門の今後の上演が注目されるが、もしこれで何もなく上演終了となったら、水戸黄門は草葉の陰で「糞みたいな話だ。」と怒るであろうが、それはそれで庶民にとっては大変な贈り物となる。
親子間、夫婦間、友人間の贈与などで税務署が贈与税をかけようとしたら、この程度の借用書をつくって、「返済期限なしの借入です。借用書があります。猪瀬さんは何のお咎めもなかったのですから、課税はおかしいでしょう」と対抗すればいいのだから。
「個人の個人による個人のための借入」は使える!