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  94団体の年金資金2,000億円が吹っ飛ぶ 
 
 AIJ投資顧問株式会社。役員と社員合わせて12人の小さな会社である。
 その聞いたこともない会社が突如社会の関心を集めている。
 オリンパスと同様の経済事件といっていい内容が報道された。
 報道内容は、次のようなものである。
 今年1月に証券取引等監視委員会がAIJを検査したところ、AIJが94の会社・団体から預かった企業年金・厚生年金の運用資金2,100億円のうち2,000億円が消失してことが判明した。そこで金融庁は、証券取引等監視委員会の行政処分勧告を待たず、2月24日付で1ヶ月の業務停止命令を出した。
 金融庁は同様の投資顧問会社263社を検査するとも報道発表した。
 年金の支給や企業の損失に大きく跳ね返るだけに、金融庁は慌てたようだ。
 監視委員会が検査に入るきっかけは、AIJが桁外れの運用実績を示して顧客を増やしていることに対する同業者の「タレコミ」だといわれている。
 監視委員会の検査は年間5件程度。AIJは2007年9月の登録以降一度も検査を受けていないと報道されている。263社を年間5件ペースで検査する場合、最後の1社は52年先ということになる。いってみれば、これまでの投資顧問会社は野放し状態になっていたということである。
 事件が刑事事件に発展するのかはいまのところ不明だが、AIJは役員含めて12人の会社であり、消失額が会社や役員から補填されるメドは皆無といってよい。
 このような会社が2千億円以上もの資金を預かり運用業務ができること自体に驚くが、ここには政府の規制緩和政策がある。

 企業年金の運用は、かつては信託銀行と生保だけだったが、1990年の金融自由化と1997年の規制緩和で投資顧問会社にも「解禁」となった。現在は運用資金の約3割が投資顧問会社へ委託されているという。
 投資顧問会社についても規制緩和が進み、2007年に「認可制」から「登録制」となり、「登録」してからある程度実績を積めば「投資一任業者」に指定されて「年金運用」も受託できるようになる。現在は263社の「投資一任業者」が「年金運用」をしているとのことだ。
 AIJは登録制になってすぐ活動を開始し、「投資一任業者」になっていた。

 真の原因は何か

 今回の事件の温床は、規制緩和を進めた政府が提供したようなものだ。「認可」は公的な機関による審査を経て認可されるのだから、それなりの安定性が公的機関によって裏付けられることになる。しかし、「登録」はフリーパス。つまり希望すれば誰でもできるわけだから、役員ひとり、従業員ひとりのような会社でもOK。検査がないのだから虚偽であっても実績を積み上げれば、「投資一任業者」になることができるということになる。
 あとは絵を描くようなパターンになることは、素人目にも容易である。
 金融庁の自見特命大臣が謝罪していたが、検査体制はもちろん、政府の規制緩和政策が生み出している日本社会の歪みがあちこちで露呈しはじめている。
 労働者派遣の緩和による雇用破壊はその代表格だ。
 年金資金の管理と運用は大変だが、「ウマイ話」の裏には一連の規制緩和がもたらしている危うさが付きまとっていることを認識しなければならない。その認識を持たないと、「ウマイ話」の悲劇は繰り返されることになる。規制緩和した張本人の政府の対応は、事態が生じた後に対処するしかないからである。
 この事件は政府に示唆を与えたはずだ。謝罪するだけでなく、政府は一連の規制緩和政策の全面見直しをやるべきだ。