コロナ禍から なにを学ぶ
政府は7月17日、今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。
新型コロナウィルスで浮かび上がった課題への対応を前面に打ち出すが、肝心の具体策は目先のものや、すでに目にしてきた二番煎じメニューが目立つ。
中長期の視点で経済財政の構造改革を進める視点は薄れている。
「骨太の方針」 ?
政府は毎年この時期から来年度の予算をつくり始める。 “案”に反映させる政策や改革の方向性をまとめる。首相をトップとする経済財政諮問会議が決めている。
旧来の予算づくりは各省庁や業界を代表する自民党議員(族議員)の力が大きく、彼らの利害を調整する役割を財務省が担い、歴代の首相は思い通りの政策ができないジレンマを抱えていた。首相の意向を反映させるため、諮問会議で「骨太の方針」を作成し、予算案の全体像を決めるやり方に変えた。
2001年、小泉首相は、自分の意向に反する族議員や省庁を「抵抗勢力」と批判し、首相官邸が主導し、大胆な改革を進める手段に骨太の方針(33ページ)を使い ・不良債権処理の抜本的解決 ・郵政民営化の検討 を予算案に反映した。
安倍政権になり各省庁や与党(自民党・公明党)がやりたい政策を全部のせるだけで75ページまで増大し、予算案に反映させる政策の方向性は失われた。
2020年の骨太の方針は ・新型コロナウィルス対応の医療体制強化 ・デジタル化に集中投資であるが、与党の意向を受けて“公共事業予算”の記述が増大した。
「骨太の方針」の主な項目
骨太の方針は政策運営や予算編成の土台となる。
今年はコロナ禍を踏まえ、感染防止策と経済活動を両立させる「新たな日常」を前面に打ち出した。
◆ コロナの医療体制強化
・ PCR検査と抗体検査を組み合わせ、検査体制の構築
・ 治療薬やワクチンの研究開発を加速。国内で生産体制を整備
◆ デジタル化への対応
・ マイナンバー制度の改善
・ 義務教育の遠隔教育・デジタル教材活用を推進
・ 書面・押印・対面を前提とした制度や慣行の見直し
・ 医療・介護分野でオンライン化を加速
◆ その他
・ 東京一極集中の是正
・ サプライチェーンの多元化・強靭化
裏付けとなる財政は具体性を欠く。
昨年まであった基礎的財政収支を黒字化する目標は明記されず、今年度の新規国債発行額は90兆円を超え、世界一悪化している借金の健全化は目標を失った。
政府は健全化目標を現実的なレベルに再設定し、方針を明確にしない限り、借金を孫子の世代に付け残すだけだ。
医療体制強化も具体性を欠く
保健所を30年間で半分近くに減らしたのは歴代自公政権だ。それがコロナ危機でパンク状態を引き起こした。
医療体制、医療保険制度の改悪(病院の再編・統合、医療保険の負担増・給付減)を進めてきたのも歴代自公政権だ。しかし、医療機関への経営支援策は盛り込まれていない。
コロナ禍 生活が困窮
厚生労働省は7月17日2019年国民生活基礎調査の概況を発表した。同調査は保険・医療・福祉・年金・所得など国民生活にかかわる基礎的事項の調査である。安倍政権のもと多くの国民が貧困にあえいでいる姿が浮かび上がった。
・ 子供(18歳未満)の貧困率 13.5%(2018年時点) 7人に1人が貧困状態である。
・ 大人が2人以上いる世帯の貧困率 10.7%
・ 大人1人で子育て世帯の貧困率 48.1%
・ 貯蓄がない世帯 13.4%
・ 貯蓄がない母子世帯 31.8%
・ 借入金のある児童のいる世帯 55.8%(借入理由.住宅ローンが主/金額1000万円以上)
・ 借入金のある母子世帯 31.8%(借入理由.生活資金が主/金額100万円未満が2割)
・ 全世帯の 54.4%(「大変苦しい」「やや苦しい」)
・ 児童のいる世帯 60.4%(「大変苦しい」「やや苦しい」)
・ 母子世帯 86.7%(「大変苦しい」「やや苦しい」)
・ 貯蓄がない高齢者世帯 14.3%
・ 老々介護(65歳以上同士) 59.7%
・ 老々介護(75歳以上同士) 33.1%
暮らしの困窮者、弱者に集中している。 政治の姿を現している。
コロナ禍 エンゲル係数上昇
新型コロナウィルス感染抑止のため自粛生活しているもと、エンゲル係数が上昇している。
エンゲル係数とは消費支出に占める食費の割合だ。
2020年5月の家計調査では31.1%とこの20年で最も高くなっている。
エンゲル係数が上昇したのは消費支出が大幅に減少したのに対し、食費は減少できなかった結果だ。2020年5月は前年同月に比べ消費支出は名目16.2%減少したのに対し、食費は3.4%の減少にとどまった。
消費支出の中で減少幅が目立つのは、 「被服費及び履物」37.4%減 「教養度楽サービス」が大幅に減少した。