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   都議選の結果から確認すべきこと 

 東京都議選が終わり、自公が「歴史的後退」となった。一方、共産も後退した。そして、国民民主が躍進した。この結果を選択した民意はいかなる判断でその選択をしたのだろうか。
 筆者は次のように捉えている。

 前回の衆議院選挙で国民民主は「手取りを増やす」「103万円の壁を壊す」と、いわばワンイシューの政策で国民の心、特に若者の心をとらえた。
 その結果、自公政権は少数与党政権となった。そして、「103万円の壁」に対して、「120万円」という実に自民党らしい小出しの令和7年度税制改正法案を打ち出して国会に提出した。
 自公は、今回もそのまま通るだろうと臨んだが、国民の強い反発が示され、「160万円」に修正せざるを得なかった。この事態は、実に歴史的な出来事なのである。
 与党が提出した「税制改正法案」はまったく無修正で成立してきたのが何十年という歴史だからである。 

 国民、とりわけ苦しい状態に追い詰められている若い世代の国民は、国民民主への投票が政治を大きく動かしたという「成功体験」を得たのである。
 国民民主はそのワンイシュー政策の財源はどうすると問われて、それは政府が考えろと突っぱねた。代替財源も示さず無責任だと言われたが、単純に無責任ともいえない。
 若者の「手取りを増やす」という政策目標が主であり、その賛否で「増やす」が選択されたのである。では、その財源はどうするのか、それこそ後追い的に政策選択する課題となったのであり、それは次に政治課題として各政党が打ち出して実現すればいいのだ。それが民意を反映する政治である。

   民意を探る各政党 

 そこで政治に求めている現在の民意は何かを各政党は探ることになる。
 米がない!何でもかんでも値上がりで切り詰めるしかない!結婚して子供を産める賃金をよこせ!etc
 「みなさんの要求に対して有効な政策を提案するので任せろ」と、各党は政策をぶち上げる。

 自民党は、一人2万円の現金給付、給与を引き上げる、と打ち出した。
 2万円もらっても物価高を乗り越えられないし、自民党が給与を引き上げるといっても、賃金を支払うものがアップアップしているときに掛け声だけになるのは社会の仕組みを知っている国民から見たら、アホいうな、寝言は寝て言えとなる。いやはや、自民党どうした、頭を切り替えてガンバレと応援したくなる。

 自民と一緒に政権を担っている与党公明党は、独自色をまったく打ち出せず、自民の金魚のフンと国民が見下していることに気付くべきで、この際、連立を離脱したらと忠告したくなる。

 一方野党各党は、物価高騰に対して消費税減税を打ち出した。減税方法の中身はいろいろあるが、主要野党が一致して消費税減税を打ち出したことは近年なかったことだ。

 これに対して、石破さんは消費税は「引き下げも引上げも考えていない」「財源論から見て消費税減税をいうのは無責任だ」と野党を攻撃している。

   財源論争の新たな芽 

 この石破攻撃に対して、財源問題で鋭く切り込んだのが共産党で、令和と並んで法人税率の引き上げを打ち出した。そして、税制にかかわるものとして目を引いたのは、「グループ通算制度の廃止」を共産党が打ち出したことだ。
 管見の限り、政党が「グループ通算制度」に対して廃止を含めた改正を政策課題にあげたのは初めてではないのか。
 法人税に長年かかわってきたものとしては、大歓迎である。

   グループ通算制度の 簡単だが本質的な解説

 この制度は最初、連結納税制度として財界の肝いりで作られた。それを極めて簡単に利用できるように改正したのが「グループ通算制度」だという経緯がある。
 そもそもは、連結会計といって、投資家がその投資先である企業集団の相対的価値を判断するために、会計制度を見直せと動いた。投資家たちは、世界的規模で儲け口に食らいつくが、その企業集団からどのぐらいの配当を得ることができるのか、世界共通の会計基準で判断できるようにしろ、と強烈な圧力をかけたのである。

 だから、企業集団の資産の時価評価は当たり前、企業集団の包括所得はいくらかを知るために、企業集団の所得は黒字と赤字を通算して包括所得として提示しろというのである。 

 そうすると、資本の論理があからさまに出てきて、激烈な弱肉強食の運動となる。日本が無縁でいられるわけもなく、会計基準も法人税制もあっというまに、国際会計基準の採用や投資家に沿った法人税改革に動かざるを得なくなった。
 その集大成が「グループ通算制度」である。 (「収益認識基準」という新しい会計基準とそれに対応する法人税法第22条の2の創設も、国際会計基準に沿った投資家向けの理念なき改正で、これも一つの集大成になっている。機会があれば取り上げてみたい。)

 制度の名称が示すとおり、企業集団の所得を通算するという法人税制で、単体課税の法人税と全く別物の法人税といえる。
 簡単な事例をあげてみよう。 

 普通の法人税なら(単体課税) 

 A社  税引前所得 10,000万円 
     
法人税3,000万円納付 (法人実効税率30%として) 

 このA社がB社(欠損法人)を完全子会社化して
 グループ通算制度の適用手続きをとったら
(グループ通算制度適用)
 

 A社  通算前所得 10,000万円 損金に算入するB社の欠損金▲8,000万円
     通算後所得  2,000万円 (=10,000-8,000) 
     
法人税600万円納付  (法人実効税率30%として)

 B社  通算前欠損金 ▲8,000万円 A社の損金に計上するとともに
                  自身の益金に算入する金額 
8,000万円
     通算後所得    0万円 (=▲8,000+8,000)
     法人税
0万円 (所得は0円となったので繰越欠損金は生じない) 

 小学生でもわかることだが、A社は2,400万円も税額を減らせた。この分を配当に上乗せできるというわけである。
 
   法人格を与えた社会システム 

 法人は各単体を法的に人格を認めて活動を保障する制度である。
 営利法人なら、各単体で営利を追求し、儲ければ相応の税金を納付する。赤字であれば税金は納付しないことで、単体としての再起を図るという社会システムである。
 各単体組織に社会の一員としての存立基盤を保障するのであるから、グループとはいえ何社もの法人をひとつの単体とみなして税金だけ負けるということは、そもそも社会システムとしては考えられていない。

 (……夫と妻が同一世帯で暮らしていて、夫は給与所得者、妻は事業所得者だとして、妻が事業で赤字となったら、その赤字分を夫の給与収入から差引いて税金を還付してくれるのか。夫婦一体で家計を支えているのだから、グループ所得通算制度として相殺を認めるのか。そうはさせまい……)

   国の財源から見たら 

 国の財源の立場から見れば、B社は単体であれグループ通算制度適用であれ、納税額は0円で変わりがないから、国の財政にはそもそも影響がない
 ところがA社からは本来なら3,000万円の税収が国庫に入るところ、600万円しか入らないのであるから、国の財源に穴が開く。
 この穴を消費税の増税で賄ってきたのがまぎれもない事実である。国の財源を投資家に食い物にされてきたツケを一般庶民に回して肩代わりさせてきたわけで、これを廃止すれば確実に財源を確保するひとつの手段になる。 

 本来なら、この制度で得した分は返せというのが筋だと思うが、共産党はそこまでは言っていない。
 随分控えめな財源の政策提示だが、とにもかくにもこのでたらめすぎる「グループ通算制度廃止」を政策として掲げたことは評価したい。
 この廃止提案に対して、どのような動きが起きるか、みなさんも注目していただきたい。