税務署の調査官というものは……
税務署の人事発令が7月10日にあり、税務署は新体制による運営が始まっている。
税務署の令和6事務年度は、この7月から来年の6月末まで。
12月までを上半期といい、この半年の「成績」が勤務評定に跳ね返るとされている。
単純に「成績」が評価基準になるわけではないが、調査官が調査で増差税額を多額にたたき出し、不正所得を見つけて重加算税をたくさん賦課する事案は、署長重審という審議会で検討されるので、自然と署長のお眼鏡にかかり、覚えめでたくなる。
その結果、勤勉手当が上乗せされたり、特別昇給をする。また翌年の人事で、国税局の調査部など、「税務署の調査官あこがれの部署」に転勤となるわけ。なにしろ、税務職員にとって局に上がることは大出世。それが税務職場の組織風土になっていて、調査官の大関心事というわけだ。
ということで、今から年末にかけては、調査の最盛期となる。
盆も暮れも正月もない?
以前は夏休みやお盆の時期の調査を控えたものだ。また、暮れの忙しい時期までには調査を決着させ、納税者に調査を引きずらせないで新年を迎えてもらうようにしていた。
ところがそれでは調査件数が稼げないということで、エライさんは調査官に人事発令前の6月から7月10日以降の調査予約を入れさせ、発令直後から調査に取り掛かるよう命令している。
また、年末までに結論を出して決着するのではなく、増差や不正を上乗せするために年をまたぐ調査も平然と行われている。
要は調査日数を確保して調査件数を増やし、是正額を増やせということからこうした変化につながっている。
そこにあるのは、なんともえげつない「ノルマ」の強要であり、「成績主義」の強化である。
税務職場の運営がブラック企業並みのノルマ尻タタキ職場になっており、それが納税者に跳ね返ってきているのが、現在の税務調査行政だということを抑えておきたい。
ノルマは行政をゆがめる
数字を追っかける税務行政は「荒い調査」になり、「調査官の暴走」が起きることになる。この結果、納税者に正しい税額以上の税額を平然とゴリ押ししてくる調査官がでてくる。
現に何件もそうした調査が行われており、行政が憲法が保障する国民の財産権を侵害している現実がある。
「5年間5千万円の所得漏れ」が「是認」に
つい最近の話である。仲間の税理士が対応した調査を紹介する。
業種は美容院。納税者一人で営業している個人事業。そこに5人の調査官が無予告で乗り込んできた。現況調査で店のレジシートを持ち去り、その後、レジシートの合計と申告売上が違っており年間1千万円の売上が過少になっている。認容経費はないから、5年間総額5千万円の所得漏れの修正を出せと納税者を攻めてきた。
この納税者は毎年9百万円前後の売上で申告している。一人でやっているため、なじみ客にはレシートを渡さなかったり、レジになれるために500万円とかの試し打ちもしていたという。レシートは1日の合計額だけが印字されて控えとして残る形式で、合計だけを見れば、カラうちは判断できない。そのことを説明し、そもそも1日の客数に限度があり、年間2千万円もの売上になるわけがないといってもはねつけられた。
納税者によれば、飛び込みの客を装って内観調査もやられたようだという。
頭にきて仲間に相談したところ、相談された業者を見ていたのが仲間で力量のある税理士であった。
顧問契約を直ちに結んだこの税理士が、年間1千万円の売上漏れの根拠を厳しく追及すると、ごく一部のレシートの試し打ちも含まれる売上合計額をこれ幸いとばかりに利用して、ありえない数字を作り上げていることが判明した。理路整然と税務署側の不当額押し付けを指摘し、不当調査だと追及すると、税務署側は反論もできず申告是認になったという。
当むさしの会計が調査対応した個人営業の食堂に対する調査もまったく同じであった。
信じがたいような調査が現にいま行われている。
税務調査は納税者が一人で受けてはいけない。違法ともいえる不当課税がまかり通っており、押し切られてしまう恐れが大だ。
調査にきちんと対応できる力量ある税理士に調査立会いを依頼して、財産権の侵害を受けないようにしてほしい。
当むさしの会計は調査に対して力量ある税理士がそろっていることは一言付け加えておきたい。
加えて、やらなければならない課題を記しておく。
IRS改革法に学ぶ必要
最近の税務調査は実に荒い。明らかに「ノルマ主義」による行政のゆがみが生じており、納税者にとんでもない負担を押し付けている。
日本の国税庁にあたるアメリカの内国歳入庁(IRS)も過去にノルマ主義の税務調査行政を展開した。それに納税者が怒り、「IRS改革法」が議会に提出され、成立することになる。
そこからIRSは、納税者の権利を保障し納税者自らが法令遵守する方向の行政に切り替えた。
日本もアメリカを見習って、「国税庁改革法」を成立させ、税務調査行政を転換させる時期に来ている。
「国税庁改革法」?
想像を超える話かもしれないが、アメリカではできている。
納税者の怒りを社会問題化し、国税庁改革法を成立させて税務行政をまっとうな行政に転換させようではないか。