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 マスコミが「岸田政権、サラリーマン大増税」と煽っているが、そんなことはないと岸田首相が火消しに躍起になっている様子を7月28日付け朝日が報じた。

  政府税調の論調

 でもねぇ、政府税調が6月30日に政府へ提出した「令和時代の構造変化と税制のあり方」と題する答申では、サラリーマンを生涯にわたって増税の狙い撃ちする思わせぶりな論調を振りまいている。
 現役時代に支給される給与については、給与所得控除を大胆に切り下げる方向性が示されている。
 続いて、「新しい資本主義」では経済成長のためにはサラリーマンが次々と転職できるようにしないといけないとしているが、その足かせになっているのが退職所得控除だからそれをバッサリ引き下げて、退職金についても増税すべきという。
 さらに、サラリーマンはリタイア後に年金生活で余生を過ごすことになるのだが、公的年金等控除額が手厚すぎるのでこれも切り下げて公的年金課税を増税しようというのである。
 政府税調のこの答申、狙いは明らかだが、会長である中里実氏のこれまでの立場を反映してか、具体的なことは一切言わず、匂わすだけといういかにもコズルイ答申となっている。責任は取らないよという無責任極まりない書きぶりがてんこ盛りで、それなりの学者先生方が名前を連ねているのに、理念や理性がまったく感じられないくだらない答申になっている。

  宮沢氏は切って捨てたが
 

 自民党税調会長の宮沢洋一氏は7月25日、「政府税調のメンバーのある意味で卒業論文みたいなもの。いろいろ書かれているが、正直言って制度の紹介的なものがほとんどだ」と切って捨てた。
 宮沢氏を持ち上げるわけではないが、一定の的は射ていている発言といえるだろう。ただし、卒業論文なら、100%落第点というべきであった。
 だが、落第点の卒論だが、そこでの示唆を見誤ってはいけない。一見切って捨てた宮沢氏の発言も、出来レース。岸田政権の支持率をにらんだその場しのぎのパフォーマンスと押さえておくべきだろう。彼らのやっていることは実にしたたかで、よくも悪知恵が働くものだと感心する。

  岸田政権の基本線
 

 なんでこんな答申を政府に提出したかというと、ここが大事なところで、岸田さんが示している「新しい資本主義」とそれを受けた「2023年骨太方針」が、賃金労働者が古くて退出すべき企業から、新しい挑戦する企業に流動しやすい環境を作る必要があり、年功序列の日本の雇用体制をぶっ壊すしかない。そのために税制改正も動員すると宣言していることにある。
 政府税調は、岸田首相から「新しい資本主義」に与するよう諮問されたことに対して答申したのだから実行してねとなるし、答をもらった岸田首相がそれを実行しなければ、自らが提唱した「新しい資本主義」に向かわないのだから、答申の否定は自己矛盾に陥ることになる。
 だから、いくら火消しに回ろうと、それは見せかけ。サラリーマン増税は今のままだと必ず行着く政府方針なのだ。
 マスコミはこの流れをあまり取り上げていないが、サラリーマンを「漂流」に向かわせる大問題が岸田政権の基本方針になっていることをしっかり認識し、自分の生活や将来設計を岸田資本主義に預けていいのかよくよく押さえて、政治的判断と政治的実行に移らなければ、とんでもないことになる。

  金魚のフン
 

 さて、マスコミは政府税調答申を巡ってサラリーマン増税と指摘しているのだが、日本税理士連合会と日本税理士政治連盟も政府税調と同じ論調に基づくサラリーマン増税を税制改正要望として6月に発表した。まるで金魚のフンだが、マスコミはあまり取り上げていない。金魚のフンでしかないので、まあ、マスコミの取扱いも致し方ないとはいえる。
 だが、税の専門家の団体であるなら、もう少し理念に基づいて改正要望を出してもらいたいと注文を付けたくなる。情けない限りだ。

  税調答申が示唆する給与所得増税策
 

 では、具体的にどのようなことを言っているのだろうか。
 もっともギラついている増税策が「給与所得控除額の減額」である。
 政府税調は次のようにいう。
 給与所得控除は「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整のための特別控除」という二つの性格がある整理したうえで、「『他の所得との負担調整のための特別控除』を認める必要性は薄い」と、バッサリ切り捨てるセリフを吐いている。
 さらに、給与所得控除は給与収入の30%程度が控除されているが、給与所得者の必要経費は給与収入の3%程度と試算されているので、「勤務費用の概算経費」としてはベラボウに手厚くなっていると指摘する。
 早い話、給与収入の3%を給与所得控除額にすればいいというに等しい。

 現行の給与所得控除と納税額

  給与収入     162.5万円以下
  給与所得控除額  55万円
  (控除割合   33.8%)
  給与所得     107.5万円
  基礎控除     48万円
  課税所得     59.5万円
  納付税額     約3万円

 これが控除割合が3%になれば

  給与収入     162.5万円以下
  給与所得控除額  4.8万円
  (控除割合   3%)
  給与所得     157.7万円
  基礎控除     48万円
  課税所得     109.7万円
  納付税額     約5.5万円

 まともな生活もおぼつかないような給与収入のサラリーマンで2.5万円の増税となる。
 退職金や公的年金に対する増税などまだまだあるが、なんといっても6千万人のベースがある給与所得者は税収を上げるのに最適な大票田であり、サラリーマンの一生涯を増税対象にすれば、間違いなく税収を上げることができる。
 防衛費の大幅増をアメリカに約束した岸田さんの行着く先は、サラリーマン増税と消費税増税である。小学生でもわかる話だ。
 新自由主義の政治体制をリベラルな政治体制に変えなければ、サラリーマンの未来は暗いといえる。