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 個人が建物や駐車場を賃貸し、不動産所得を得ている方は多い。
 わが事務所でも個人の不動産貸付業の確定申告を何件も受任している。課税事業者の方もいるが、大抵は消費税免税事業者である。
 アパートなど住宅用であれば、消費税は非課税なので、10月からインボイス制度に移行しても消費税法上の問題は生じない。
 しかし、店舗や事務所を事業者に貸している場合はインボイスの問題が出てくる。
 そうした顧問先に、課税事業者と思われる店子さんや不動産管理会社から文書が届き始めている。
 どのような文書かというと、要は「大家さんは家賃についてインボイスを交付してくれるのかどうか教えてほしい」というものである。
 店舗や事務所を借りている課税事業者にすれば、当然のインボイス移行対策である。

   影響と対策

 実は、インボイス移行は、不動産賃貸借をめぐって影響が大きく、いくつか対策を講じなければならない。
 簡潔に対策を羅列するので、参考にしていただきたい。

   原則は

 課税事業者の方は適格請求書発行事業者登録をして、インボイスを発行するのが原則となる。

   口座引落し方式の毎月家賃

 だが、毎月の賃料は、大抵は口座引落し方式で、毎月請求書や領収書を発行している人はいない。この場合、契約書をインボイス対応に直すか、適格要件を補足する「通知書」を借り手に交付すればよい。
 借り手はインボイス対応契約書か「通知書」と、口座引落し明細書の合わせ技で適格となり、仕入税額控除ができる。

   保証金は

 毎月の賃料とは別に保証金を受領している場合は、保証金の精算に関する契約内容をよく精査してインボイスに対応しなければならない。
 基本的な扱いは、返還しないことが確定する日を課税売上(借り手は課税仕入)の日とするということになる。ただし、いろいろなパターンがある。

 ① 契約書に退去時に保証金は返還しないと明記してあれば、契約締結時に全額が課税売上となる。借り手は契約時に保証金の全額が課税仕入になるので、10月1日以降であれば、保証金に関する適格請求書の交付を求め、貸し手にはインボイスを交付する義務がある。

② 経過する年ごとに保証金を消却する方式の契約なら、その年の該当日の課税売上に貸し手は計上し、借り手は課税仕入に計上することになるので、対応するインボイスをやり取りしなければならない。

③ 退去時の精算が明記された契約であれば、退去時にそれに対応するインボイスをやり取りすることになる。

 既存の賃貸借契約の場合は、保証金についても気を付けて対応してほしい。
 10月1日以降の新規賃貸借契約であれば、毎月の賃料に関する適格要件を満たすだけにとどまらず、保証金に関する消費税の扱いについてもパターンに応じてインボイスを交付する旨を契約に明記することにしたい。今後は、そうした契約書になっていくと思われる。

  貸し手が免税継続なら

 貸し手が免税事業者を継続する場合、借り手から消費税の扱いをどうするのか協議することになる。
 例えば月10万円の賃料で消費税1万円、合計110,000円としている賃貸借契約を取り交わしているとしよう。借り手が課税事業者で貸し手が免税を継続することが分かれば、借り手にすればこの3年は80%しか仕入税額控除ができないため、2千円が賃料値上げと同じことになる。
 取引なので、借りたい、貸したいの力関係が働くが、一般的に店子確保の要請が働くことが多いと思われるので、借り手確保優先となれば、賃料を2千円値引して98,000円、消費税9,800円、合計107,800円の賃料に改定することで対応することになろう。
 保証金消却が盛り込まれていれば、同じようにその消却時期に対応して保証金を一部返還する等の対応もせざるを得ず、経過措置の期間と保証金消却時期をみながら、気を回さざるを得ない。

 たいへん面倒なことだが、注意していただきたい。