岸田首相の宣言と日本の運命
岸田さんはこの国会の所信表明で、明治維新(1868年)から77年で敗戦(1945年)、その敗戦から今年(2023年)は77年をへて、節目の年だという。
だからナンだと言いたいが、「忖度するに」こう言いたいのだろう。
「明治維新後は富国強兵で軍事国家づくりに77年間邁進した。その結果、日本は1等国になった。しかし、無謀な戦争に突入したせいで、せっかく繁栄していたのに軍事国家は破綻した。その後77年間は経済優先国家として邁進してきたが、世界経済の前に屈して先が見えない。ならば再度富国強兵の軍事国家づくりに邁進して、国難を打開しようではないか。今年は年数のゴロがいい。軍事国家への転換の年にするぞ。」
ロシアのウクライナ侵略をこれ幸いに、国防と軍備拡大を煽るは煽るは。マスコミも煽りに一役買っている感がある。
本当にこの国は反省しないし、知恵もない。しかし、どうもそれは日本だけに限られないようだ。人類は賢さを高度化できない生き物なのではないかと、最近つくづく考え込んでしまう。
つい77年前に日本は国家が破産した。日本が仕掛けた戦争に敗北したからだ。
日本国民は塗炭の苦しみを味わうことになる。
この結果は、実は予測できたはずだ。戦前にその知恵がなかったわけではない。
企画院は戦争遂行の経済的基盤がないからアメリカに勝てないと分析していた。山本五十六は短期なら暴れて見せるが、それ以降はできないことを知っていた。
にもかかわらず、なぜ戦争を起こしたのか。それは、財政が国のありようを規定し、軍事国家・中央集権国家・として振る舞う行動原理を押し付け、その行動が引き起こす許されざる行為の結果、破綻する以外にその国の運命はない道を歩ませるからだ。
先学に学ぶ
いまを生きる我々は、先学者たちの研究成果を生かすことができる。
ここでそれらの研究成果を確認しておこう。「財政社会学とは何か」(有斐閣・2022/12)から関連部分を紹介したい。
大軍拡に舵を切ろうとしている岸田自公政権の施策が、我々をどこに導くのかを把握するためである。
今後の日本の行方を予測し、そうならないために我々は何をすべきかを考え、実際に行動を起こすことに役立つと思うからだ。
シュムペーターの指摘
「租税国家の危機」を書いたシュムペーターは「財政をみれば、国家に関して、その本質、その形態、その運命を把握することができる。」(1983年)とした。
ブリュアの指摘
ブリュアは1989年にイギリス(イングランド)歴史を次のように分析した。
「イングランド国家が極めて大きな権能を持つようになった。それは、イングランドが巨額の軍事費負担を大規模な増税および国債の発行によって賄うと同時に、それらを支える中央集権的な行政組織を発展させた国家となった」。そして、「とりわけ歳入部門・内国消費税部門の行政組織が急速に拡大していった。」とし、「複雑な計量基準と簿記を必要とし、経験と実務能力に基づく厳格な階層構造組織をもち、中央の厳密な監督下で運営されたイングランドの消費税行政は、18世紀ヨーロッパの他のどの国よりもM.ウェーバーのいう官僚制の理念に近いものであった。」と評価した。
ブリュアの分析は財政=軍事国家、そのもとに置ける中央集権国家化をあぶりだしたのだが、それまでイギリスは商業国として、租税が難なく収納される政権権力の「弱い国家」であるとみなされていたものを、大転換させた。
ディリーの指摘
ディリーは1985年、その研究で、「『戦争が国家をつくった』、すなわち、戦争のための軍事的機構の整備を進めるなかで、領土の統合、中央集権化、強制力の強化の独占などといった国家形成の基本的なプロセスが進行していった。」ことを明らかにしたうえで、財政面に関していえば、「戦争による軍事的な必要のために経費が増大するなかで、そのための必要な資金をどのように調達するのかという点が問題になってくる。そのなかで財政制度ないし租税制度の発達が必要とされ、ひいては専門的な行政組織の発達にもつながっていき、それは同時に、軍事的な成功ひいては国家形成が財政的な能力、すなわち課税あるいは借金という形でどれほど財源を集めることができるかにかかっているということでもある。」とした。
大島の指摘
大島通義は1996年、「総力戦時代のドイツ再軍備」という研究書を発表した。そのなかで、ヒトラーによるドイツの戦争準備が急激に進展した前提として、1933年4月4日の政府決定があると指摘する。この決定により、国防省予算の財政統制は排除され、軍事財政の資金調達が保証されることになった。結果、国防省は国家の中の「例外国家」になったとする。そして、1933年4月4日政府決定を準備したのは、1920年代の「秘密再軍備とその財政の『合法化』が政府決定の背後にあるが、政府は議会による財政統制ではなく、『超法規的』な対応を選択し、この仕組みによって、ヒトラー政権誕生前にドイツ国防軍が再軍備の基礎を築いた」とする。
その結果はご存じのように、ヒトラーはその軍事力を使って「領土拡張」に走り、最後は軍事財政の枯渇からドイツ敗戦に至る。
破滅に導く「政府決定」
これらの研究は、今の日本を、そして日本の運命を如実に示していないだろうか。
ある権力者が、議会を通すこともなく極めて秘密裏に、2022年12月16日「政府決定」として「安保3文書」を閣議決定した。秘密ではないが、その決定過程は秘密に近い。
大島通義がドイツ研究で取り上げた1933年4月4日「政府決定」をいやがうえにも思い出させる。
5年間で43兆円の軍拡を決め、その財源は法人税・所得税・たばこ税増税で賄うことも決定した。しかし、この増税で確保できる財源は1兆円である。隠し財源の活用もあるというが、具体的な話はまったくない子供だましの虚言に近い。
つまるところ、消費税大増税と国の借金である。
そこで、ブリュアのイングランド分析とディリーの分析を見てほしい。消費税大増税体制は着々と進められている。こうして、中央集権国家に突き進み、強制力強化となり、外交で納めるべきところを増強された武力による対決を選択することになり、国民の大犠牲に至る。
今や自公政権とそれを補完する一部野党の動きは、危険水域に達している。
国民は、まだ間に合う選挙権を行使して、危険を排除する政府をつくらなければならない。
まさに次世代の子どもたちのために。