納税者の権利を守る立場で奮闘されている多くの方の参考になればと考え、当事務所が代理人として関った審査請求事案に対してなされた裁決について報告します。
<事案の概要と結果>
審査請求人は個人で小売業を営み、青色申告をしているAさん。所得税調査で2人の国税調査官がきた。土建組合書記局員が立ち会ったところ、立ち会いは認めないというので別室に退去した。立会問題が解消したので、調査担当者はAさんが用意していた帳簿書類を検査し質問も行使した。調査が約3時間経過した時点で、調査日の売上日報を見たいと要求するのでAさんは調査日前日の売上日報を提示したところ、調査担当者は残高の記載がないと厳しく詰め寄る。Aさんは調査担当者の態度に憤りを感じ、抗議したところ、その日の調査は終了した。その後、さらに帳簿を見たいというので、日程を折り合わせ調査初日と同じように土建組合事務局員も同席して帳簿を用意して待っていた。複数の調査官が臨場した。事務局員の立会同席を見た調査担当者は無言で席を立ち、退去していった。ついてきた調査官があわてて調査担当者の後を追い退去していった。その後何の連絡もなかったところ、3月12日付で、青色承認取消し、専従者給与の否認、青色特典控除の否認、消費税の仕入税額控除全額否認の更正を打ってきた。
すべての否認のベースになる青色取消しについて、更正通知書に記載された理由は「各年分の帳簿の提示があった。進行年分の売上日報の提示を求めたところ拒否され、具体的調査をすることができなかった。さらに提示を求めたが、帳簿の提示がなかった。従って、青色承認を取り消す」というもの。
以上が事案の内容です。
Aさんは更正処分の全部取り消しを求めて審査請求しました。これに対して11カ月後、審査庁は棄却の裁決を行ってきたものです。
<失笑ものの事実認定>
Aさんから異議申立てをしたいと相談を受けた当事務所は、更正理由が事実を捻じ曲げたうえに構成されていることが確認できたので、全部取り消しを求めて手続きを進めました。
異議決定では事業専従者控除を認めたものの、調査した時間は「おおむね60分程度であった」ので、「調査担当職員が十分に閲覧、検査することはできず、提示があったことにならない」と、他の要求を棄却しました。
当事務所は、異議決定においても事実の捻じ曲げがあるため、審査請求を行いました。
調査日における調査官たちの帰署時間が午後3時半過ぎになっている事実を明らかにし、従って、調査時間が3時間におよび、しかも複数の調査官が売上帳や仕入帳、小切手の耳などの帳簿書類を閲覧し、質問も行使したことから、帳簿書類は提示され十分に閲覧された客観的事実を審査庁に反論書として提示しました。
これに対して審査庁は、請求をすべて棄却する裁決を下してきましたが、根拠となる事実認定では次の展開をしてきました。
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午前10時に臨場
午前11時ころに第3者が退席
午前11時半から帳簿書類のうち19年分の売上日報の確認開始
正午から昼の休憩
午後1時から再開するとともに
午後になってから提示させた調査日前日の売上日報の不備を指摘
指摘したところAさんが退席を求めたため
午後1時半ころ調査を中止
この時点において、19年分の売上日報のうち2月分及び7月分の一部分の売上代金を確認したものの、本件各書類すべての調査を了していなかった。
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このような時間経過や閲覧した帳簿書類は、異議決定でも原処分庁の答弁書でも一切触れられていません。Aさんも隣室に退去していた土建組合書記局員も、ひどい嘘だといいます。
ピンとくる方も多いと思います。
時間と閲覧した書類の二つについて、結論を導き出すための作為がありあり。
審査庁は、午前11時半から12時までの30分、午後1時から1時半までの30分、あわせて60分が調査時間だったと述べます。時間割を示して「おおむね60分」をこじつけようというのですが、当事務所が示した調査官たちの帰署時間が午後3時半すぎという点には一切触れません。税務署には30分もあれば十分に帰れる場所ですから、具体的な時間を示せば示すほど作為が露わになるという皮肉な結果になっています。
閲覧した帳簿書類を売上日報に限定してきました。仕入に関する帳簿や書類を閲覧したのなら、消費税の課税仕入を認めざるを得ないからです。
2人の調査官が2カ月分の一部と前日1日分の売上日報を見るのに1時間費やしたというのです。小売業ですから仕入と対応させなければ売上が正しいかどうか確認しようがないため、併せて仕入を見るのが税務調査です。事実、支払の確認をしています。
文面から調査官たちの動きをみると、1カ月分の売上金額を集計すらしておらず、売上日報を眺めていただけになります。税務調査の常道から見て破たんは明らかで、調査官たちの無能ぶりにのっかる余りにお粗末な組み立てに失笑せざるをえません。
しかし、これでAさんは消費税の仕入税額控除を全額否認され、多額の追徴を受けたままですから、正義はどこにあるのかといわざるをえません。
<制度を守るため>
審査庁の認定事実が、作文でねつ造されてしまうのはなぜでしょうか。
税務調査に対する非協力は許さないという体制や制度を守るためです。制度を守るためには、納税者の不利益などお構いなし。事実は何か、法の正義はどこにあるのかなどお構いなし。裁決書はどうにでも書けるのです。
平成22年度の税制大綱に、国税不服審判所改革が書き込まれました。当事務所が関った事案から見ても、改革が急がれます。