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 税理士の自主・自立を !

 事業活動計画案(第三号議案より)

1 はじめに
第2次安倍内閣は、政権樹立1年半を経て、その右翼的本質をあからさまに表面化してきました。2013年12月特定秘密保護法、2014年1月靖国参拝、同年4月武器輸出3原則撤廃、同年7月集団的自衛権容認、河野談話・村山談話の見直しなど、戦後日本の平和主義、民主主義に挑戦し、転換を図ろうとする政策を矢継ぎ早に繰り出しています。日本政府の右傾化については、世界各国から懸念の声が上がり、とりわけ、中国、韓国との間では、政府間交流が長期間途絶えたままとなっています。

望月教授(立命館大学法学部)が特別講演
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 こうした流れは、教育政策、労働政策、経済政策にまで及び、ヘイトスピーチデモ、公立施設での集会の規制、東京税理士会総会での君が代斉唱等々、様々な社会現象として表れています。
とりわけ、集団的自衛権容認の閣議決定は、戦争放棄を謳った憲法9条に真っ向から反し、国民多数の反対、懸念の声を無視し、立憲主義を崩壊に導く極めて危険な暴挙と言わざるを得ません。
このような政治の未来は、軍備拡張、自衛隊の増強に直結し、また、財政政策も消費税を基幹税としたさらなる増税、大衆課税の強化、年金、医療、介護、生活保護などの社会保障の切り捨てなど、国民生活圧迫の強権政治が強められることが予想されます。現在1000兆円を超す借金を抱える日本経済の再建はおろか、むしろ一層の経済危機に陥ることも予想されます。
東日本大震災、福島原発事故の被災から3年余を経過しても、いまだに復興から取り残される人々が数多く存在するにもかかわらず、目に見える対応策もなくそれらを置き去りにし、原発再稼働、原発輸出に走る政策運営に国民の怒りは高まっています。

2 税財政の特徴
国の借金が1000兆円を超える一方で、大企業の内部留保は約300兆円に拡大していますが、政府はさらに残業代0円制度、派遣労働者野放し等の労働政策を含め、経済特区創設など産業政策、法人税減税、復興特別法人税の1年縮減、資本金1億円超の法人の飲食交際費の経費算入拡大など税制でも大企業の利益優先を露骨にした税・税制政策を決定しました。平成26年6月に税制調査会が示した「法人税の改革について」では、圧倒的に大企業優遇となる法人税減税を宣言するとともに、法人税の負担構造を改革するとして、課税ベースの拡大、中小零細業者への外形標準課税の導入、中小法人に対する優遇措置の見直し、給与所得控除、住民税、固定資産税などの見直しによる課税強化を明言しています。
さらに、2014年4月の消費税3%の増税実施、2015年10月からの2%増税予定、配偶者控除の見直し、相続税基礎控除の引き下げなど、国民に対する課税の強化は次々と繰り出されてきます。
とりわけ消費税の増税は中小業者、国民に大きな負担を強い、増税前の駆け込み需要での消費拡大がみられたものの、大方の予想通り4月以降は景気に陰りが見えはじめました。さらに来年10月からのさらなる引き上げはまさに中小業者にとって死活問題であり、国民的共同で何としても跳ね返す必要があります。

3 税務行政を取り巻く状況
 国税通則法改正から1年半を経過し、税務調査の実態が相当明らかになってきました。調査の入り口と出口が法制化されたことから、法律の縛りの中で調査準備、経過報告、調査結果のまとめなどにこれまでにない相当な時間を要し、調査件数は概ねこれまでに比し30%程度の減少となっているようです。また、調査内容についても恣意的判断が制限され、すべての処分について「理由附記」を必要とするため、審理担当の役割が飛躍的に重視されているとしています。しかし、事前通知や反面調査などでは法改正以前の従来型調査方法も散見されます。
 また、税務代理権限証書の様式変更による事前通知の変更は、税務署側の利便性を上げ、税理士の馴れ合い的な対応により事前通知制度をなし崩し的にしていくことが予測さてます。法律に基づいて、書面による「事前通知書」の交付を求めていくなど今後の検討が必要です。
 改正通則法は、納税者の権利・利益の視点からしてみれば「税務調査の透明性、予見可能性を高めたもの」といえ、一定の前進と言えますが、当研究センターが主張している「納税者権利憲章制定」要求から見れば不十分なものです。しかし、納税者や税理士が通則法に精通し、毅然と対応することによって、納税者の権利、利益を護るための力となることは確認されています。さらに「納税者権利憲章」の制定など納税者の権利を拡大するための研究・活動が求められます。
 国税当局は、接触率拡大を図り、申告水準向上のため様々な方策を手探り状態で展開しています。行政指導文書拡大、机上調査の強化、ハイブリット調査、質問応答記録書の聴取など、コンプライアンスを高めるための様々な手法を用いるなど、行政による課税攻勢が推し進められています。

4 税理士会の自主・自立化を求めて
 本年度の東京税理士会総会は異様でした。全員起立の「君が代」斉唱で幕を開けました。政権の右傾化の影響が表れています。今年度の税理士法改正では、急遽「租税教育への取り組み」が取り込まれ、税理士会として国税庁の下請化が拡大されています。センターでは「納税者の権利・利益を護る」立場から、税理士会の問題にも目を向け、税理士会の自主、自立化に向けて発信を続けていく必要があります。

5 おわりに
 いま私たちは、日本の歴史の大きな転換点にあります。とりわけ政・財界を上げた戦後歴史の書き換えを目する動きは、税財政、税務行政とも一体のものです。かかる厳しい情勢に中にあっても、センターの研究活動、講演活動、提言等は各研究・運動団体の間でもその力を発揮し多いに前進しています。センターでは研究成果の一層の発展と発信を目指して、国民生活擁護、納税者の権利・利益擁護の立場を堅持し、民主的な財政制度、民主的な税制、税務行政の確立のために活動を展開させていきます。

 特別講演は 立命館大学法学部教授  望月 爾 氏

 総会に引き続いての特別講演は、「国税通則法改正と納税者の権利のあり方」と題して、立命館大学法学部 望月 爾(ちか)教授が行なった。
 1 平成23年国税通則法改正の意義と評価
 2 今時の国税通則法改正の概要と問題点
   ⅰ納税猶予制度の見直し
   ⅱ行政不服審査法改正に伴う不服申立制度の見直し
 3 納税者権利憲章をめぐる近時の国際的動向
  ― 納税者権利憲章制定に向けた課題 ―
と題し講演された。

 国税通則法改正は、本来、国税通則法を50年ぶりに抜本改正し、「国税に係る共通的な手続き並びに納税者の権利及び義務に関する法律」(略称・国税手続法)として国会に提出された。そして、「納税者権利憲章」を作成し、公表する旨が規定されていた。しかし、自公民三党合意に基づいて修正され、「納税者の権利」の部分はことごとく削除され、2011年11月30日に可決・成立し、同年12月2日公布・施行されたものだ。

 今般の国税通則法改正は、租税調査手続の法令上の根拠の明確化、処分への理由附記の原則義務化など評価できる点はあるものの、納税者の権利項目は削除され、義務が挿入、「納税者権利憲章」の策定・公表をはじめ、本来の目的である「納税者の権利」規定などが見送りとなった。

 カナダでは、1985年「納税者権利宣言」が公表され、2007年「納税者権利憲章」が公表された。
この憲章は、15の納税者の権利と5つの責務を規定している。15の権利のうち7つが法律上の権利であり、8つが行政サービス上の権利となっている。また、この権利の実効性を高めるため「納税者オンブズマン」が設置されている。さらに、2013年には納税者オンブズマンの勧告を受け、歳入局による納税者への差別的な取り扱いにつながらないように、税務行政サービスに対する苦情申立てや公正の調査を要求する権利を納税者権利憲章の16番目の権利として追加する納税者権利憲章の改定が行われた。

 先進国の中で、「納税者権利憲章」制定・公表されていない唯1つの国が日本である。未だ国民は年貢を納めろ、納税は義務であって権利ではないとしている国である。
 我々税理士の自覚と闘いが重要となっている。

  【冊子発刊】 <税務調査への対抗・徹底解明> (仮称)

 満場一致で確認された方針に従い、国税通則法改正下における税務調査の実態を明らかにし、<納税者の権利・利益擁護の立場から、税理士は如何に国税当局と対峙していくべきか>を包括的・全面的に論じた冊子を刊行することが確認された。
 以下、冊子の方向性について報告すると

<はじめに>

 平成25年1月、国税通則法の改正・施行により「税務調査手続」が一変、税務行政の内容を大きく変えるものとなった。
 「税務調査の透明性」と「納税者の予見可能性」を高めるという観点から、税務調査手続の法定化及び税務調査結果の説明義務・理由附記の実施が明確化された。

 施行から2年が経過。
 税務調査手続をめぐり、多くの疑問と課題・問題点が税理士のみならず税務調査官・税務当局からも寄せられている。
 国税通則法改正後、税務調査手続に関し税務当局は「法令解釈通達(平成24年9月)」・「事務運営指針」及び「質疑応答集」(「FAQ」・・・FAQには税目別「職員用」のほか「納税者用」「税理士用」がある)を策定し、さらには「質問応答記録作成の手引き」など執行の場面における具体化を図ってきた。

 しかし、税務当局自身十分な研修(実地調査優先で研修が置去り)が行なえず(・・・従来の税務調査と変わらないとの認識が蔓延)、当局・調査官が試行錯誤しながら税務調査を行っている。

 また、税理士自身も国税通則法の改正を十分に理解せず、「法文化されただけで従来と変わらない」「税務調査手続など面倒くさい・省略する」などの実態も報告されている。

 国税通則法改正の主眼点は、納税者の権利擁護の立場から、「税務調査の透明性」と「納税者の予見可能性」を担保することにある。

 平成26年度改正で、税務調査手続の「事前通知」に係る改正(従前は、税務調査の事前通知は納税者及び税務代理人の双方に通知することとされていたのを改め、税務代理権限証書に予め納税者の同意が☑されている場合には、税務代理人に通知すれば足りるとされた。・・・民法上の「代理人」として法的立場はない。・・・税務当局の都合による事前通知の形骸化 ・・・ 税務調査終了の手続きの代理<あらためて別途提出を求められる>は含まず)が行われたが、今後も税務調査手続、その具体化をめぐる動きは“改善”か“改悪”か、さらなる展開を迎えると思われる。

 この具体的展開は、まだ、動き始めたばかりであり、税務当局の都合に変化させるのか、納税者の権利擁護に変化させるのか、今後の税務行政の基本的姿勢を問う正念場を迎える情勢となっている。

 私たちはこうした状況の下、平成25事務年度(税務当局25/7~26/6間)の税務調査完結事例の実態調査を実施し、<新>国税通則法下における税務調査の実態と税理士の対応を全面的・包括的に分析・編集し、今後の税務調査対応への活用策を探ってみた。

                         平成26年12月or平成27年4月刊行(予定)
                          企画・編集・協力・発行  ・・・・・・・・


<基本的論点>

 本稿編集にあたり基本的視点は、
 第一に、税務調査結果(当局・平成25事務年度・25/7~26/6間、調査対象者・全国税制懇話会
会員)の実態を分析・検討し、現時点における疑問と課題・問題点を明らかにする。
 第二に、・・・・・税務調査手続(事前通知)
 第三に、・・・・・税務調査(実地調査)
 第四に、・・・・・物件の留置き
 第五に、・・・・・調査終了手続(争点整理と結果説明)
 第六に、・・・・・理由附記
 第七に、・・・・・行政指導
 第八に、・・・・・質問応答記録書
 第九に、・・・・・苦情申立・情報開示請求
 第十に、・・・・・税理士の対応 

<あとがき>
・・・を入手しうる全ての資料を添付・編集・論評し、全面的・包括的に論じた。

全面的かつ総括的・包括的な調査・分析、対応 ・・・ 論文(冊子)化をお楽しみしてください。

  全国税制懇話会2014年 秋季全国研究集会

 2014年 全国税制懇話会 秋季全国研究集会は、仙台松島「大観荘」で開催します。
 今年は東北ブロック主催で、10月19日(日)~20日(月)に行われます。
 記念講演は・山本守之先生。“税務行政・税務調査の実態”について鋭く迫るテーマとなっています。また、「現場からの報告」をはじめ、「査察調査体験記(査察調査とどう向き合うか)」、「第二次納税義務問題と対処法(第二次納税義務裁判闘争での教訓)」、「アメリカ税制視察報告」、「税理士事務所経営の継承・悩みと今後の展開(税務署と真に対峙できる事務所構築と組織的連帯)」です。
 国税通則法改正(税務調査の透明性と納税者の予見可能性)をうけ、税制と税務行政・税理士の対応(立ち位置)が大きな転換期となっています。 ・・・ ご期待ください。
・ 参加費は 20,000円(宿泊.資料.講師料.懇親会込)
・ 申し込みは、全国税制懇話会 事務局(宮澤税務会計事務所内 小田川まで)

     公開講座 東京税財政センター

 秋の公開講座は、11月14日(金)に開催予定となりました。