税務当局が調査を強化
税務当局が賃貸所得(不動産所得)のある個人を詳細に調べ始めている。賃貸不動産が多い都市部を中心に、昨年から申告内容の「お尋ね」と題した文書を多数送付。確定申告などの内容を質問しており、今後調査を強化する可能性がある。 不動産は投資だけでなく、老後資金のための保有も多く裾野は広い。注意が必要だ。 “『お尋ね』という文書がきたが、どうゆうことなのだろうか?” と事務所に連絡される方が昨年相次いだ。 |
回答した場合でも申告内容に誤りがあれば修正申告が求められる。
課税の対象となる不動産所得とは、賃貸収入からその収入を得るためにかかった経費(必要経費)を差し引いて計算したものであり、決算書(収支内訳書)はその詳細な中身を示す。
不動産所得がありそうなのに確定申告をしていない人にも「不動産の利用状況」を問う文書を送付している。
わずか1週間で回答を求めるケースも目立ち、負担感は大きい。
昨年から実地の税務調査をする際には事前通知などの法的手続が厳格化され、実地調査件数が減少している。このため税務当局は厳格な手続が不要な『お尋ね』に活路を求めている。 不動産所得に的を絞れば効率がよいというわけだ。
必要経費に注意
今後、不動産所得に対する調査が強化される公算は大きく、申告には注意が必要だ。
最大の注意点は必要経費である。必要経費となるのは賃貸収入に関係し、直接必要な費用に限定される。
● 不動産所得の必要経費の注意点を列挙してみた。
他人に賃貸し、収入を得ている必要経費に限る
・ アパートの一室を親族が無償で利用している場合
ⅰ 建物などの固定資産税
ⅱ 火災保険料
ⅲ 借入金利息
ⅳ 減価償却費
ⅴ 修繕費
ⅵ 電気料・水道光熱費
・・・親族が無償で利用している部分は必要経費とならない・・・
・ 借入金の利息は必要経費となるが、元本の返済は必要経費とならない
・ 大規模修繕費
ⅰ 建物などの価値を高める改修などは資本投資であり、必要経費とならない
・・・資産取得となり、減価償却費として毎年費用化する・・・
・ 管理費
・・・賃貸管理を一族が経営する管理会社(法人)に委託しているケースの場合、
管理料が高額だと租税回避と認定される・・・
・ 交際費
ⅰ 収入を得るために直接必要な経費のみでる
● 不動産所得の収入金額の注意点を列挙してみる。
・ 未収賃貸料の収入計上
ⅰ 未収であっても権利は確定しているので収入に計上
ⅱ 前賃料契約の場合は、翌月分といえども収入に計上(月分ではない)
・ 共益費として賃貸料のほか別途徴収している金額の収入計上
ⅰ 電気料、管理費などとして共益費を受領している場合は収入に計上
・ 礼金・更新料などの収入計上
また、事業的規模に至っているか? 事業的規模に至っていないか? で取扱いは大きく変わる。
事業的規模でないのに青色事業専従者給与を必要経費にしたり、青色申告特別控除(65万円)計上するのは誤りである。建物などの取り壊し、滅失損の計上、貸倒金の計上なども取扱いが違う。
還付申告のポイント
所得税の確定申告は、2月16日から3月15日とされいるが、確定申告義務のない還付申告(医療費控除・雑損控除・寄附金控除等があり、税金の還付がある場合)は、1月1日より確定申告が受け付けられる。
Ⅰ 年金所得者
公的年金の収入金額が400万円以下で、年金以外の所得の金額が20万円以下の場合は、
確定申告が不要となっている。
ただし、確定申告が不要とされただけで、税金が精算確定されたわけではない。
多くの場合、払い過ぎのままとなっている。(サラリーマンの年末調整前の状態)
よって、申告しなければ税金が精算還付されないこととなる。(税務署は放置)
申告しなければ控除されない社会保険料や生命保険料、医療費や雑損・寄附金等がある場合
は、還付申告をして税金を取り戻せる。(寡婦・夫控除も検討を)
Ⅱ 還付申告ができる期間
還付申告ができる期間は、その年分の翌年1月1日から5年間である。
確定申告を提出していなければ、5年分の還付申告を求めることがでる。
過去に確定申告をして税金を誤って過大確定している場合は、還付申告の手続はできない。
「更正の請求」という手続となる。
「更正の請求」ができる期間は、確定申告の提出期限から5年以内。
確定申告は、過大な税金とならないよう注意を。
Ⅲ 還付申告ができる場合の具体例
・ 給与所得者で、年の中途で退職し、年末調整を受けずに税金が納め過ぎとなっている。
・ マイホームの取得などで、住宅ローンがある。
・ 多額の医療費の支出がある。
・ 特定の寄付をした。
・ 災害や盗難などで損害を受けた。
など。
Ⅳ 還付申告ができない場合の具体例
源泉徴収された所得税があっても、源泉分離課税とされている所得税(銀行預金利子等に対す
る源泉所得税など)については、確定申告により還付を受けることはできない。
Ⅴ 雑損控除
災害・盗難・横領により損害を受けた場合、雑損控除の対象となる。
雑損控除の対象となる損失の金額には、災害関連支出の金額も含まれる。災害で直接受けた
損失のほかに、罹災した住宅、家財などの取壊し、除去の支出も含まれる。
Ⅵ 医療費控除
・ 控除金額
医療費控除は、所得金額の5%か10万円のいずれか少ない金額を超える部分が医療費控除
の額とる。
控除額の上限は200万円。
・ 控除対象者
還付申告者本人に限らず、生計を一緒にしている親族の医療費もまとめて対象とる。
・ 医療費の範囲
医療費の範囲は、治療や診療費、出産費用、医薬品代、通院交通費や入院費用(付添人など
の費用含む)など。
美容整形費用、人間ドック費用(異常が発見され、その後治療に移行した場合は医療費控除
の対象となる)、健康増進薬、医師に対する謝礼金などは医療費控除の対象とならない。
Ⅶ 寄附金控除
特定の寄付をした場合、寄附金控除の対象となる。
特定寄附金とは、 ・国又は地方公共団体に対する寄附金 ・公益法人や公益を目的とする法
人又は団体に対する寄附金で、財務大臣が指定した寄附金(例えば、学校法人に対する寄附金)
・特定公益増進法人に対する寄附金(例えば、社会福祉法人に対する寄附金) ・特定公益信託
の信託財産とするためにした寄附金 ・政治活動に関する寄附金など。
Ⅷ 住宅借入金等特別控除
住宅借入金等特別控除、いわゆる「住宅ローン控除」は、納税額から直接差引く税額控除。
大きな還付金額となるので必ず還付申告を。
適用条件はいろいろあるので注意。
提出書類もたくさんあるので、事前に準備を。
Ⅸ その他の還付申告
年末調整で申告漏れのあった控除は、確定申告で取り戻せる。
年金所得者の確定申告で控除漏れが多いのが「寡婦(夫)控除」と「(特別)障害者控除」。
寡婦(夫)控除は以前、老年者でない者との条件付であったが、老年者控除の廃止に伴い、老
年者にも適用範囲は広がった。従来どおり適用を受けていない者が多くみられる。
寝たきりの人等を自宅で介護している場合(いわゆる家族介護など)は、障害者手帳の交付を
受けていなくても(特別)障害者控除の対象となる場合がある。しっかりと還付申告を。