これから年末にかけて、23年度の税制改革論議が本格化する。10月6日政府税調で示された課題や首相の動きを見ると、庶民や中小零細企業に増税を強いる内容が目立つ。かたや財界の要求は丸呑み。国民の暮らしは本当に大変なことになる。論議の流れに対して、国民生活を守る観点から、反対の大きなうねりを起こす必要がありそうだ。
①消費税
菅政権は、参議院選挙で消費税率10%への引上げを打ち出して惨敗したため、消費税率の引き上げは鳴りをひそめているが、はっきりと引上げに狙いを定めている。
10月1日の所信表明演説で、「この閉塞感に包まれた日本社会の現状に対して、どの政権に責任があったと問うている段階ではありません。先送りしてきた重要政策課題に今こそ着手し、これを次世代に遺さないで解決していかなければなりません」として、「個人の消費拡大」を図るといっていた民主党の政策から、「法人による成長戦略」への転換を打ち出した。
消費税の増税は「衆院解散後」としていた民主党の原案を、首相の意向で「早期に」と改め、超党派での合意ができれば次期衆院選挙を待たず、早期の消費税増税が可能な内容としている。
消費税増税は、国民にとっては物価の引上げである。中小零細企業には、確実にコストの増加となる。輸出企業には、より多くの消費税還付税額の取得である。
②法人税
財界は、法人税率の5%引き下げを強く要求し、これを受けて経済産業省は強力に政権や財務省に実現を迫っている。
減税要求に対しては見合う財源を提示せよという政府方針がある。法人税5%引き下げの見合い財源は約2兆円だという試算結果が出た。法人税や租税特別措置法の枠内の増税で見合い財源として示されたのが、租税特別措置の一部縮小、赤字を翌年以降に繰り越せる繰越欠損金や減価償却の見直し、配当や引当金の見直し。しかし、これでは実質的減税にならないと財界は猛反発し、実質的減税になるよう改めて求めている。
欠損金は現在7年間繰り越せるが、この年数を短縮したり、上限を設定するという案が出ている。中小零細企業には大きな影響がでる。
当ホームページ(2010.07.01、経済フラッシュ9)でも示したが、これまでも消費税の増税分が法人税の減税穴埋めに充てられてきた。財界の要求はここに尽きる。見合い財源約2兆円は消費税の1%相当である。消費税率を1%引き上げれば、法人税率5%引き下げの財源となり、租税特別措置等の増税見直しは必要なくなるわけだ。当然、消費税増税が見合いで日程に上ることになっていく。
③所得税・相続税
所得税の改正事項は昨年からの引き継ぎもあり、項目が絞られている。
給与所得控除の見直しと、成年扶養控除や配偶者控除の見直し。いわゆる人的控除の見直しである。これは確実に増税となる。
いわゆるオーナー会社のオーナーに対する報酬(給与)については、給与所得控除に上限を設ける話も出ているが、これは今年の税制改革で盛り込むことが決まっている課題である。
所得税については、減税要素が見当たらない。
相続税は、①バブル期の引き下げ措置が継続しているが、もうバブルではない、②高齢化が進んでいるので相続後の生活に配慮する必要がない、ということで課税ベースと税率構造を見直し、増税するという。
国民総背番号制、平成26年に実施の情報も
納税環境整備も23年税制改革に盛り込むことが既定方針である。そのうち最も議論が進んでいるのが、納税者番号制である。納税者番号制度というが、出ている案は年金や健康保険等でも使用する共通番号制度である。実質的国民総背番号制といわれているが、平成26年度から実施するとの情報がでている。
民主党が「給付つき税額控除」を実施する場合、番号制が不可欠だと位置づけているからだが、消費税率引上げに対して、逆進性緩和として「給付つき消費税額控除」を措置して国民の反発を弱めたいとの思惑があるためだといわれている。
共通番号制度が導入されれば、所得の捕捉率は格段に高まる(韓国のような運用なら、99%捕捉といわれている)。そもそもはそのための番号制度である。国民的合意が必要だ。
国民生活重視から企業成長戦略に転換した民主党菅政権。国民には増税の嵐が吹きすさぶ。国民管理の番号制度に対しても、黙っていては危ない。