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    「納税者権利憲章」に納税者の義務は不要
                 ・・・・最後尾に 「世界の納税者権利保護の状況」 を掲載

 政府税制調査会は昨年12月16日「平成23年度税制改正大綱」を発表し、菅内閣はこれを閣議決定した。
平成23年度税制改正大綱は冒頭に「納税環境整備」の項を設け、納税者権利憲章の策定、税務調査手続の整備、更正の請求期間の延長、処分の理由附記などの措置を国税通則法の見直しによって行うとしている。
納税者権利憲章=納税者保護法の制定は私たちの悲願である。
平成23年度税制改正大綱によると、納税者権利憲章は「行政文書として、国税庁長官が作成」するとしている。そして憲章に法定する事項として
ⅰ 納税者に提供される各種サービス
ⅱ 税務手続の全体像、個々の税務手続に係る納税者の権利利益、納税者・国税庁に求められる役割・行動などをあげている。
納税者に求められる役割・行動とは、納税者に義務を求めていることである。
本来、納税者権利憲章=納税者保護法とは、強大な国家権力=税務当局の横暴に歯止めをかけ、納税者=国民の基本的人権、財産権を守るために制定されるべきであり、納税者=国民と国家権力=税務当局とを並列的にバランスとして「権利と義務」を置くものではない。
 納税者の利益に係る事項と国税庁に課せられる義務のみを制定すればよいものである。
 納税者の権利を記述するなら義務もバランスよく記述すべきだとの発想は、いつの時代も政治的権力者が使う常套手段である。

     「納税者権利憲章」に納税者の義務は不要

 平成23年度税制改正大綱は「納税環境整備」として「納税者に求める内容、納税者に気をつけていただくこと示す」として
① 税務調査の事前通知を法律上明確化・・・ただし、事前通知をしない例外規定も法律上明確化
② 税務調査の理由開示を税務調査の目的開示と薄め、正当な理由開示をしないことを明確化
③ 税務調査上必要とした物件の預かり(帳簿、請求書等の提示・提出)を法律上明確化
④ 課税庁が増額更正できる期間を5年(現行3年)に延長
⑤ 白色申告者に記帳、帳簿、請求書等の保存義務の拡大
⑥ 帳簿記帳、請求書等の保存義務がない納税者の権利制限(経費を認めない)を法律上明確化
⑦ 税務調査終了後も再調査可能の制度を法律上明確化
⑧ 取引先、金融機関等への反面調査権限を法律上明確化
⑨ 修正申告の勧奨と称し修正申告の強要を法律上明確化
等々、納税者の権利保護に逆行する規定が数多く盛り込まれている。
 なぜ納税者の権利を法定化するのに納税者の権利を侵害する義務規定を盛り込まなければならないのか。
 納税者は皆脱税している(性悪説)。国家権力はこれを取り締まらなければならない。
国民の権利と国家の義務ではなく、国家の権利と国民の義務という思想が前面に出された平成23年度税制改正大綱である。
納税者=国民の基本的人権、財産権を侵害してはならないという憲法理念など微塵もないものである。
私たちは、納税者権利憲章制定を逆手に取り、税務行政の便宜、効率を最優先させ納税者に過大な義務を押し付け、基本的人権、財産権をも侵害する平成23年度税制改正大綱を速やかに撤回し、真に納税者が国家の主人公たる「納税者権利憲章」を直ちに制定するよう求める。

  <参考> 世界の納税者権利保護の状況

   2003年1月現在 『世界の納税者権利憲章』より湖東京至氏作成

項 目
アメリ
ドイ
フラン
イギリ
カナ
スペイ
納税者権利保護法・権利憲章の有無
×
制定年
1988
1977
1975
1986
1997
1984
1998
税務調査の事前通知義務
×
補佐人の立会権
×
×
×
専門家に依頼する権利
×
×
同一年度再調査禁止規定
×
税務調査の期間制限
×
×
×
3ヵ月
×
×
×
12ヵ月
税務調査の録音権
×
 
×
×
×
×
×
×
税務調査の終了・是認通知
×
修正申告を慫慂しない
×
オンブズマン制度の有無
×
事前照会制度・アドバンスルーリング
×
一部あり
×
一部あり
×